●警備業界に基準法は存在しない ④



「社会保険に加入してくれない…。」
「有休休暇を取らせてもらえない…。」

ハ、ハ、ハ、
残業分は支払ってくれるのでしょう?
最低賃金以上の額なのでしょう?
それなら「上等、上等」。

この業界では「基準法違反」が当たり前。

基準法違反は「やった者勝ち」。
監督署に指摘されたら「その時から」守ればよい。
過去の違反は追及されない。

監督署は「そこで働いている者,働いていた者」の違反申告がなければ動かない。
それ以外の者が違反情報を知らせても動かない。

この業界で「基準法を持ち出したら」干されてしまう。
「きつい現場に回される」、「仕事を与えてもらえない」。
結局は「辞めなければならない」。
監督署に違法申告をする者なんているはずがない。

この業界に労働基準法は存在しないのです。

えっ?
「業務の発注者が基準法違反に文句を言ってくる」ですって?

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」のことですね。
国の「ビジネスと人権に関する行動計画」のことですね。

「企業はその製品が作られる過程で人権侵害がないように配慮しなければならない」という「社会的責任」ですね。
どこかの芸能事務所の人権侵害で注目されているアレですね。

そんな「社会的責任」にビクビクするのは「世間体を気にする」大企業だけ。
自ら率先してやらなければならない地方公共団体すら全く気にしていませんから。
落札価格が高くなるので、発注した業務の違法労働は見て見ぬふり。

今回はそんな地方公共団体について書きましょう。

4.ある地方公共団体の取り組み

「企業はその製品・サービスを作り出すすべての過程で人権侵害がないようにする責任がある」とする国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や国の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」

こんな指導原則を持ち出すまでもなく、官公庁や地方公共団体は「その大小を問わず」同様の責任を負わされています。

それは「税金を活動原資とする限り納税者の信託に反してはならない」から。
納税者は「税金を使うことで人権侵害や労働法令違反が発生すること」まで信託していないから。

ここでは私の地元の「津市の取り組み」を紹介します。

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を作成し、これを広めようとしている関係者の方はよく読んでください。

頭がそちらを向いていても、足元が反対方向に向かっていますよ。

a.津市公契約条例

津市には「時代を先取りし光輝く」公契約条例があります。
津市民として「自慢げ」に紹介。

〇目的

「この条例は、公契約における業者間の競争の激化、落札価格の下落等による
労働者の賃金その他の労働環境の悪化が懸念される
ことに鑑み、
公契約に係る基本方針並びに本市及び受注者等の責務を定め
並びにこれらに基づく施策を実施することにより、
労働者の労働環境の確保優良な事業者の育成及び地域経済の健全な発展を図り、
もって労働者が労働意欲にあふれ、かつ、住民が豊かで安心して暮らすことのできる地域社会を実現することを目的とする。」

まさしく国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の通りです。
国連の指導原則が採択されたのが2011年、この条例の施行が2018年。
津市は「人権を尊重する地方公共団体」なのです。

◯津市の権限
・報告を求めたり立ち入り検査を行う。
・是正措置を命じる。
・労働者の違反申告窓口を作る。
・労働者から違反申告があったら関係機関へ通報する。
・指名停止権,契約解除権,契約解除による損害賠償請求権。

◯受注者の責務
・関係法令と公契約条例の順守。
・適正な労働環境の確保。
・労働者との対等な労使関係。
・公契約の適正な履行。
・報告・立入検査への協力。

※津市公契約条例の詳しい説明は → こちら

b.津市総合支所警備業務調達

次に、この公契約条例が適用される公共調達の実態です。

津市では総合支所7か所と短期大学の宿日直警備業務を公共入札で決めます。
業務は
・1名配置
・平日15.5時間,休日24時間の宿日直警備。
・施設の施錠・開錠,巡回,時間外電話対応,郵便物受け取りなど。

調達方法は
・市内業者全員指名
・最低落札価格なしの「安い者勝ち」
・1年契約で毎年入札

●断続的労働の適用除外許可が必要な業務

( 許可申請手続き )

「宿日直警備員の適正賃金還付請求」のときに詳しく述べますが、
この業務は「労働時間が8時間超える」ので監督署の「断続的労働の適用除外許可」が必要です。
この許可を得ないで労働者に業務を行わせれば基準法違反となります。

許可申請には次の資料が必要
・実際の業務に基づいた作業内容の詳細
・巡回ルート
・警備室,仮眠室の装備や広さ

この資料に基づいて実地調査と勤務する警備員への確認が行われたあとに
内容を審査して基準に合致していれば許可書が交付されます。

( 仕様書の記載 )

しかし、仕様書に記載されている業務の内容は
「施設開場・閉場,施設内巡回,電話・来訪者対応,郵便物受け取り,事故発生・緊急対応など」という大雑把なもの。

これでは「その業務が断続的労働の適用除外許可の下りるものかどうか」判断できません。

そこで津市に「具体的な業務内容」を質問。

津市は
労働基準法解釈総覧 ( 厚生労働省労働基準局編 ) の「断続的労働の適用除外許可基準」をそのまま転記して「津市はこの業務が断続的労働の適用除外許可の下りる業務だと捉えている」と回答。

「津市がそう捉えていても」監督署がそう判断するとは限りません。

そこで、
「現在受注している業者はこの許可を得ているのかどうか」を質問。

津市の回答は
許可申請は受注者が行うものであり、当方としましては、受注者が許可申請を行っているかどうかは把握しておりません。

えっ?
「発注業務が適法に行われていること」をチェックしてないの?
「国連の指導原則」そのまんまの津市公契約条例はどこに行ったの?

※以上詳細は → こちら

●最低賃金の減額許可で人件費を算定

宿日直警備は拘束時間は長いが「巡回・業務 → 手待ち → 巡回・業務 → 手待ち」が繰り返されるので平均すると労働強度が低くなります。
そこで「実際の労働強度に応じて最低賃金を減額すること」が認められています。

最低賃金を減額するためには労働局の「最低賃金の減額許可」が必要です。
許可申請は「断続的労働の適用除外許可」と一緒に行います。

添付資料,実地調査,勤務警備員への確認は断続的労働の適用除外許可と同じです。
これらの資料に基づいて「減額率が算出」され、許可するかどうかが審査されます。
許可を受けだ雇用主は「許可された減額率」で最低賃金を減額して支払います。

この許可を得ないで「最低賃金より低い賃金を支払った場合」は最低賃金法違反となります。

実際の業務内容の詳細が分からないと「許可されるだろう減額率」が計算できません。
減額率が推測できないと警備員の賃金,労働保険料,社会保険料,有休負担分などの人件費が算出できません。

警備業務にかかる経費の殆どが人件費です。
人件費が算出できなければ入札価格が決められません。

そこで、津市に質問。
「業務の詳細な内容はどのようなものか?」

津市の回答は
各支所で作った「想定される実労働時間数と手待ち時間数」。

「想定」では役にたちません。
こちらは「許可されるであろう減額率をより正確に知りたい」のです。
現在の受注者に「許可された減額率」を教えてもらえば済むことです。
それを「参考減額率」として答えれば済むことです。

そこで、津市に質問 ( 要望 )
「現在受注している業者に許可されている減額率を示してほしい」。

津市の回答は
受注者より適用除外許可・減額の特例許可書の呈示を求めていないため、
お示しできません。


えっ?許可書の提示を求めていないンだ!
「発注した業務が適法におこなわれているかどうかチェックしていないンだ!」

しかし、これは間抜けな回答。
「津市は受注者から適用除外許可書と最低賃金の減額許可書の提示を求めていない」と公言していることになります。
「津市は受注者の労働法令違反をチェックしません」と公言していることになります。

警察が「スピード違反取締をしていません。オービスは電源が切ってあります」と言っているのと同じじゃないですか!

言い訳を作って逃げれば逃げるほど追い込まれていきます。
逃げているうちに、国連の指導原則や津市公契約条例とは正反対のところまで。

※以上詳細は → こちらこちら

●鉄面皮でさらに逃げる

なぜ、津市はこれほどまでに「受注者の法令違反にアンタッチャブルなのでしょう?」

こんな「邪推」をしてしまいます。
・津市は発注業務での違法労働状態は十分知っている。
・それをチェックすると「違法労働前提の安値入札」がなくなり落札価格が高くなる。
・「受注者の法令違反は受注者の責任で津市は関知しません」とみて見ぬふり。

確かに、適正価格の1/3で落札されていますからね。 → こちら

姑息に逃げ回るので、さらに追及。
「津市公契約条例により、津市は自らが断続的労働と捉えている業務について、受注者が断続的労働の適用除外許可を得ているかどうかをチェックする責任があるのではないか?」

津市の取った方策は
・仕様書を変更すること。
・何十年も同じ内容の仕様書の「警備員1名配置,断続的労働」を
   2023年の仕様書から「警備員1名以上配置」に変更して「断続的労働の文言削除」。

こう考えたのでしょう。

  • 1名配置なら勤務時間が8時間を超えるので必ず断続的労働の適用除外許可が必要。
  • 1名以上配置なら「許可の不要な場合」も選べる。
     15.5時間勤務を3人,24時間勤務を4人でやれば8時間原則に反せず許可不要。
    そうだ「断続的労働」の文言も削除しておかなければ。
  • 受注者が「そんな配置」をするはずがないのは百も承知。
    しかし、「1名配置」にすれば「断続的労働の適用除外許可の必要な業務を発注したことになる」が「1名以上配置」にすれば「断続的労働の適用除外許可の必要な業務を発注したことにはならない。」。
    それを選んだのは受注者だから「津市には関係ない」
  • 「津市に関係ないこと」だから「断続的労働の適用除外許可書のチェックをしなくても津市公契約条例の津市の責務に反しない」 → こちら

笑えるでしょう?
こんな「チマチマした逃げ」をよく考えられるものです。
しかし、「頭かくして尻隠さず」。
「納税者の信託」や「国連の指導原則」をどこかに置きっぱなしにしていますよ。

●全ての責任は有権者

掲げるだけの「人権尊重・法令順守」の津市公契約条例。
実際は「人権侵害・法令違反なんか気にしません」。
「税金の有効利用.安く安く受注させましょう。それが納税者を大切にすることです。」

津市長に何を言っても鉄面皮。
津市担当は「逃げて、逃げて、頭かくして尻隠さず」
市会議員は「興味なし」。

「津市のガラパゴス行政」の最終的な責任は有権者にあります。
彼らを暴走させている津市民にあるのです。



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