●警備業界に基準法は存在しない ③



「社会保険に加入してくれない…。」
「有休休暇を取らせてもらえない…。」

ハ、ハ、ハ、
残業分は支払ってくれるのでしょう?
最低賃金以上の額なのでしょう?
それなら「上等、上等」。

この業界では「基準法違反」が当たり前。

基準法違反は「やった者勝ち」。
監督署に指摘されたら「その時から」守ればよい。
過去の違反は追及されない。

監督署は「そこで働いている者,働いていた者」の違反申告がなければ動かない。
それ以外の者が違反情報を知らせても動かない。

この業界で「基準法を持ち出したら」干されてしまう。
「きつい現場に回される」、「仕事を与えてもらえない」。
結局は「辞めなければならない」。
監督署に違法申告をする者なんているはずがない。

この業界に労働基準法は存在しないのです。

えっ?
「業務の発注者が基準法違反に文句を言ってくる」ですって?

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」のことですね。
国の「ビジネスと人権に関する行動計画」のことですね。

「企業はその製品が作られる過程で人権侵害がないように配慮しなければならない」という「社会的責任」ですね。
どこかの芸能事務所の人権侵害で注目されているアレですね。

そんな「社会的責任」にビクビクするのは「世間体を気にする」大企業だけ。
自ら率先してやらなければならない地方公共団体すら全く気にしていませんから。
落札価格が高くなるので、発注した業務の違法労働は見て見ぬふり。

前回までに「違法労働が当たり前」の警備業界,基準法違反に「甘い」監督署を説明しました。
今回は「発注者の責任」です。

3.発注者の責任

・「警備業者の90%が零細企業 → 安値競争 → 基準法違反前提で受注」。
・監督署は警備員からの違反申告がなければ動かない。
・監督署が動いても雇用者が是正勧告に従えば無罪放免。
・違反申告をした警備員は「干されて」辞めなければならなくなる。

このような警備業界から「基準法違反」をなくすることはできないのでしょうか?

警備業者に仕事を発注する側に責任はないのでしょうか?
「発注者が警備業者に業務を発注 → 受注者である警備業者がその業務をやるときに基準法違反をした」
発注者は「受注者が受注業務を違法に行ったこと」について「私は関係ありません」と言い切れるのでしょうか?

a.発注者が私企業の場合

●原則

資本主義は「自分の金で何をやろうと、それが法律に反しなければ自由」です。
だから、皆が工夫して経済活動を行い活発になるのです。

ある企業が自社ビルの警備をある警備会社に発注した。
その警備会社がそのビルの警備業務を行うときに基準法違反をしていた。

基準法違反をしたのは業務を受注した警備会社で発注した企業ではありません。
発注した企業は何の法律違反もしていません。

発注した企業は「その値段で受注する」と言ったから受注させただけです。
受注者が「受注した業務を基準法に反しないで提供するかどうか」は知ったことではありません。

「違法労働を黙認して安値で受注させた」と勘繰られるのが嫌なら
契約書に「受注者は適法に業務を実施すること」という文言を入れておけば済みます。

これが「私企業の原則」です。

●国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」

しかし、発注者が大企業の場合は「私企業の原則」で逃げることはできません。
世間の批判があるからです。

大手自動車メーカーが自社ビルの警備業務をある警備会社に発注した。
その警備会社がその業務で違法な時間外労働をさせていた。
最低賃金より低い賃金しか支払っていなかった。
これを監督署に申告した警備員を「干した」。

これが世間に知れると世間の批判を浴びて企業の信用が下がります。
世間が持ち出すのは国連の「ビジネスと人権に関する指導原則 ( 法務省版 ) 国連版

この「指導原則」を大雑把に言えば、
「企業はその製品・サービスを作り出すすべての過程で人権侵害がないようにする責任がある」。
もちろん、労働者に対する違法行為も人権侵害となります。

加工下請け会社の段階だけではなく原材料そのものの製造段階にも責任を負わされます。
それが「自由競争社会で利益を上げる企業の責任」と考えているのです。

もちろん、この「指導原則」に法的拘束力はありません。
しかし、この指導原則に従う「社会的責任」を負わされます。

大手自動車メーカーが自社ビルの警備を警備会社に発注した場合、
「発注者であるその自動車メーカーは、受注者である警備会社がその業務を行う上で関係者への人権侵害がないか、労働者への違法行為がないかをチェックする必要があり、人権侵害や労働者に対する違法行為があればそれを是正させ、是正しない場合は契約解除をしなければならない」という社会的責任を負わされるのです。

契約書に「受注者は業務を行う上で関係者に対し人権侵害を行ってはならないし、労働関係法令に反してはならない」という文言を付記してこの責任を逃れることはできません。
相手は裁判所ではなく社会なのですから。

この社会的責任は企業規模の大小を問わず全ての企業に存在します。

しかし、大企業ほど世間の批判の対象となり、大企業ほど信用失墜の損害が大きいので「大企業がこの指導原則に縛られる」ことになるのです。

b.発注者が官公庁の場合

●原資は税金

官公庁や地方公共団体が発注する場合は「私企業が発注する場合」と少し異なります。

それは、私企業の活動原資が「自分の金」なのに対し、官公庁や地方公共団体の活動原資は「税金」だからです。

税金は納税者から信託されたお金です。
官公庁や地方公共団体の「自分の金」ではありません。
「どう使おうと自分の勝手だ」とは言えないのです。
納税者の信託に反して使うことはできないのです。

官公庁や地方公共団体が発注者となる場合、
「その原資が税金である」ことから
「受注者の人権侵害や労働法令違反を是正する責任」があるのです。
納税者は「税金を使うことで人権侵害や違法労働が発生すること」を信託していないからです。

官公庁や地方公共団体が税金を使って業務を発注する場合は、
「国連の指導原則」を持ち出すまでもなく、同様の社会的責任を負わされているのです。

国も「国連の指導原則」と同じような指針を出しています。
責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン

もちろん、このガイドラインの対象は民間企業だけではありません。
自分たちも守るべきことは当然です。

厚生労働省のビルの警備業務で受注警備会社が違法労働をさせていたら笑われますからね。

もちろん、国連の指導原則,国のガイドラインに法的拘束力はありません。
それに反する官公庁や地方公共団体の行為を裁判に訴えて是正させることはできません。

しかし、官公庁や地方公共団体であればこそ「率先して取り入れるべき」なので、
その社会的拘束力は私企業より強くなります。

官公庁や地方公共団体は大小を問わず「守らなければならない原則」となります。

この点に関し、当地の地方公共団体の取り組みを紹介します。
あなたの地の地方公共団体はどうでしょうか?



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