●津市業務調達と独占禁止法違反

「まだ頑張りますか?」



4.不公正な取引方法

a.不公正な取引方法とは

「公正な競争を害する可能性のある行為」を法律と公取委が指定して禁止しています。(2条9項,19条)

「私的独占や不当な取引制限の禁止」を補うとともに、これらの行為を未然に防止するためです。
公取委が指定するのは流動的な社会の変化に遅れずに対応するためです。 (法律改正は時間がかかる)

○法定の不公正な取引方法(2条9項1号~5号)
・共同の取引拒絶
・差別対価
・不当廉売
・再販売価格の拘束
・優越的地位の濫用

○公取委指定の不公正な取引方法(一般指定・全ての業種に適用されるもの)
不公正な取引方法(昭和57年公取委告示15号) → こちらこちらも
・共同の取引拒絶
・その他の取引拒絶
・差別対価
・取引条件等の差別取扱い
・事業者団体における差別取扱い等
・不当廉売
・不当高価購入
・ぎまん的顧客誘引
・不当な利益による顧客誘引
・抱き合わせ販売等
・排他条件付取引
・拘束条件付取引
・取引の相手方の役員選任への不当干渉
・競争者に対する取引妨害
・競争会社に対する内部干渉

※特殊な業種にだけ適用される特別指定もあります。
・新聞業における特定の不公正な取引方法(平成11年公取委告示9号・新聞特殊指定)
・特定荷主が物品の運送または保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法
(平成16年公取委告示1号・物流特殊指定)
・大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法
(平成17年公取委告示11号・大規模小売業告示)

どのような行為が不公正な取引方法に該り独禁法で問題になるかについては各々の行為について公取委からガイドラインが出ています。 → こちら

本稿では「津市業務調達の安売り競争」を取り上げているので、「不当廉売」を取り上げます。
「安売り競争がどこまで許されるか」の基準です。

b.不当廉売

イ.法定の不当廉売と公取委指定の不当廉売の要件が異なる理由

◯法定の不当廉売(2条9項3号)
正当な理由がないのに、
商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で
継続して供給することであつて、
他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

◯公取委指定の不当廉売
法2条9項3号に該当する行為(法律の定める不当廉売)のほか、
不当に
商品又は役務を低い対価で
供給し、
他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。

法定の不当廉売は「コスト割れ対価」で「継続的に供給」
公取委指定の不当廉売は「低い対価」で「供給」
これは「コスト割れ対価でなくても」,「継続的でなくても」具体的状況から不当廉売に
該る場合があることを示しているだけで、法定の不当廉売の要件を変えたものではありません。

不当廉売ガイドライン(指定6号の意味)
法定不当廉売の要件である価格・費用基準及び継続性のいずれか又は両方を満たさない場合
すなわち,廉売行為者が可変的性質を持つ費用以上の価格(総販売原価を下回ることが前提)で供給する場合や,可変的性質を持つ費用を下回る価格で単発的に供給する場合であっても,
廉売対象商品の特性,廉売行為者の意図・目的,廉売の効果,市場全体の状況等からみて,公正な競争秩序に悪影響を与えるときは,不公正な取引方法第6項の規定に該当し,不当廉売として規制される

ロ.不当廉売の要件

◯不当廉売の要件
①その供給に要する費用を著しく下回る対価で(コスト割れ対価)
②継続して供給し(継続性)
③他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある
④正当な理由がない(公正競争阻害性)

①商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で

・「コスト割れ対価」のことです。
・排除型私的独占の場合と同じです。

コスト割れ対価では商品を供給すれば供給するほど損失が出ます。
コスト割れ対価から得られる利益は「競争者を排除したり新規参入を妨害したりすることだけ」です。
これを禁止しても「公平な競争」を害しません。
また、誰かがコスト割れ対価で供給すると競争者や新規参入者もコスト割れ対価にしなければならなくなり、競争者は市場から撤退し、新規参入者は市場に入ることができなくなります。
そのため「自由な競争」が害されます。

◯コスト割れ対価の判断基準
「その商品を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)」
・その商品の製造原価だけでなく
・その商品の増産するために増えた費用(製造ラインを追加した費用)
・その商品の供給と密接に関連する費用(増加した運送費・保管費,宣伝費)も含む。
※詳しくは → 不当廉売ガイドライン

製造原価を割っていたら完全にアウトです。
宿直業務では人件費を割っていたら完全にアウトになります。

ただし、「その業務を受注すればメンテナンス業務など付随した業務も受注できる場合」は付随した業務の利益を合わせてコスト割れかどうか判断されます。

津市の宿直業務委託ではこれがないので「人件費割れ」で完全にアウトです。

②継続して供給する

・相当な期間にわたって繰り返して行われること。
・毎日行われることは不要。毎週金曜日でも状況によっては「継続性あり」と判断される。

・「閉店セール」での投げ売りは「継続性なし」として不当廉売にならないでしょう。

③「事業活動を困難にさせるおそれがある」

・現に事業活動が困難になることは必要ない。
・「事業活動を困難にさせよう」という意思も不要。
・諸般の状況から「事業活動が困難になる」具体的な危険性(可能性)があればよい。

・排除型私的独占では「事業活動の継続が困難になる危険性」、
・不公正な取引方法では「事業活動が困難になる危険性」。
不公正な取引方法は私的独占より要件がゆるくなっています。

※ガイドライン
「事業活動を困難にさせるおそれがある」とは,
現に事業活動が困難になることは必要なく
諸般の状況からそのような結果が招来される具体的な可能性が認められる場合を含む
このような可能性の有無は,他の事業者の実際の状況のほか,廉売行為者の事業の規模及び態様,廉売対象商品の数量,廉売期間,広告宣伝の状況,廉売対象商品の特性,廉売行為者の意図・目的等を総合的に考慮して,個別具体的に判断される


公取委の判断を待ちましょう。

④正当な理由がない

・「正当な理由がある」とは「公正な競争を害しない場合であること」。
・「地域貢献のため」,「生活困窮者を救うため」,「宣伝のため」というような「個人的な正当理由」ではありません。。
・ただし、「閉店セールの投げ売り」では「正当な理由がないが、継続性がない」ので不当廉売になりません。
・「生活困窮者を救うために無償で提供する」のなら「正当な理由がないが、事業性がない」ので不当廉売にはなりません。

○ガイドラインが示す正当な理由がある場合
・その商品の需要が下がりその商品の市場価値が下がった。
・原材料の値段が下がったのでその商品の市場価値が下がった。

・商品を「コスト割れ」で売っても、その価格が現在の市場価格なので公正競争は害されず不当廉売になりません。

・品質が低下して売り物にならなくなる生鮮食料品、販売の最盛期を過ぎて売り物にならなくなる季節商品の見切り販売。

・商品を「コスト割れ」で売っても、商品自体の価値が下がっているので公正競争が害されず不当廉売にはなりません。

・もちろん、その「コスト割れ」は相応のものでなくてはならない。

◯参考.「正当な理由がないのに,不当に,正常な商慣習に照らして不当に」の使い分け

・その行為類型の公正競争阻害性の大小で使い分けています。

・「正当な理由がないのに」
原則として公正競争阻害性がある。例外的に公正競争阻害性がないもの。

・「不当に」
原則として公正競争阻害性がない。個別に公正競争阻害性の要件を検討するもの。

・「正常な商慣習に照らして不当に」
原則として公正競争阻害性がない。個別に公正競争阻害性の要件を検討するが、
そのときに「正常な商慣習」を考慮した方がよいもの。

・不当廉売だけ法定は「正当な理由がないのに」、指定は「不当に」を使っています。
この理由についてはガイドラインに記載がありません。

c.差別対価

法定の差別対価(2条9項2号)
不当に、
地域又は相手方により 差別的な対価をもって、
商品又は役務を継続して供給することであって、
他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

◯公取委指定の差別対価 (3号)
法2条9項2号に該当する行為のほか、
不当に、
地域又は相手方により 差別的な対価をもつて、
商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。

◯趣旨
取引価格は相手方の取引量,決済方法,配送条件などにより、
また地域により需要が違うので、相手方や地域により取引価格が違うのは当然。
それは公正な取引の範囲内です。

しかし、これを超えて特定の地域や特定の相手方に対して差別的な対価を用いる場合は「競争者の事業活動が困難になる」危険があります。
たとえば、原材料を製造業者に供給する事業者が特定の製造業者にだけ高い値段で原材料を売ればその製造業者の販売力が下がり、公正な競争が害されます。
また、特定地域で安値販売すればその地域の公正な競争が害されます。

公共調達なら同様の案件で競争相手によって入札価格を変えることがこれにあたるでしょう。



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