●「国連のビジネスと人権に関する指導原則」に逆行する津市

国連の指導原則に逆行する津市

よく見ると「そろそろ」ですね。



2.国連のビジネスと人権に関する指導原則とは

a.本稿との関係

最近「国連のビジネスと人権に関する指導原則」が注目されています。

ある放送局が人気のある芸能プロダクションに仕事を発注していた。
その芸能プロダクションの代表者が従業員に性加害を繰り返していた。
発注者である放送局はそれにうすうす気づいていた。
しかし「その芸能プロダクションに反発され仕事から手を引かれる」のを恐れて問題にしなかった。
その放送局の利益の一部はその芸能プロダクションの性加害から作り出されたと言える。
だから「見てみぬふりをした放送局もその芸能プロダクションのした性加害に対して一定の社会的責任がある」というものです。

津市の公共調達のやり方は、「国連のビジネスと人権に関する指導原則」に反していることはすぐに判ります。
しかし、どの点に反しているのかをはっきりさせないと批判の論拠とすることができません。
そこで、「国連のビジネスと人権に関する指導原則」の内容を検討することにしました。

「国連のビジネスと人権に関する指導原則」についてはいろいろなサイトで紹介されています。
しかし、どれも「表面をなぞっただけのもの」でよく分かりません。

「企業はバリューチェーンに於けるステークホルダーの人権への負の影響に対し、グリーバンズプロセスを伴った人権デュー・ディリジェンスを行わなければならない」
( 説明している方も理解しているのかな? )

法務省も「企業に求められるビジネスと人権への対応」という文書を出していますが
企業の義務を取り上げただけで国の義務が欠けています。 → こちら

そもそも、「誰かのする説明」では説明者の解釈や取捨選択が入ってしまいます。
「国連のビジネスと人権に関する指導原則」を理解するためには、それ自体から始めなければなりません。
そこで本家の「ビジネスと人権に関する指導原則」を逐条的に検討しました。 → こちら


しかし、翻訳文なので分かりにくく、さらに経済に疎い私には理解できない部分がたくさんありました。
そんな部分を分かりやすい言葉に置き換えたり、省略したりしているので「間違っている点」もあると思います。
その点は読者の方で修正してください。

※参考記事 ( お勧めです )
日本経済新聞連載「やさしい経済学」大阪経済法科大学教授 菅原絵美氏寄稿 → こちら

※暇な方はこちらもどうぞ ( 読む気がしません )
・ビジネスと人権に関する行動計画 → こちら
・責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン → こちら

b.製造過程で他人が引き起こした人権侵害の責任を負う

「国連のビジネスと人権に関する指導原則」の考え方は
「企業は商品やサービスが作られる過程で発生した人権侵害や環境破壊に対して一定の責任を負う。」
言葉を変えれば
「企業は商品やサービスが作られる過程で発生する人権侵害や環境破壊を防ぐ一定の義務がある。」

企業自身が引き起こした人権侵害や環境破壊だけでなく、
商品やサービスが作られる過程で他人が引き起こした人権侵害や環境破壊にも責任を負うのです。

その根拠として「企業の社会的貢献」が挙げらますが、
根本には
「企業の利益は商品やサービスが作られる過程での人権侵害や環境破壊によっても作り出されている」からです。

「価値連鎖の頂点に立ち利益を得る企業はその利益を生み出す過程に対しても責任を負う」という考え方です。

たとえば
A社が自社ビルの警備をB警備会社に「相場の半分」で委託した。
B警備会社はその業務に於いて警備員に最低賃金より低い賃金を支払っていた。

最低賃金法違反をしたのはB警備会社でA社ではありません。
B警備会社が「相場の半額でやる」といったのだから契約しただけです。
A社は何の法的責任を負いません。

しかし、A社は「相場の半額」で契約しているので「B警備会社の違法労働によっても利益が作り出された」と言えます。
B警備会社の違法労働がなければ受注額はもっと高くなったはずだからです。

もちろんA社にB社の違法労働の全責任を無条件で負わせることはできません。
資本主義の原則は「自分が法律に反しなければ何をしても自由」だからです。
だから、各人が創意工夫をして企業活動が活発になるのです。
他人の違法行為の責任を無条件に負わせたら企業活動が萎縮してしまいます。

そこで、
どのような場合に責任を負い、その責任を果たすためには何をすればいいのか」が問題になります。

これを明らかにしたのが「国連のビジネスと人権に関する指導原則」です。
各国がこれを取り入れています。
わが国も取り入れて企業に推奨しています。(2020年ビジネスと人権に関する行動原則)
当然、地方公共団体も従わなければならないルールです。

ただし、これは「国連が定め各国が認めたルール」で、法律ではありません。
このルールに反しても刑罰を受けたり損害賠償を請求されたりすることはありません。
しかし、世界的な「社会的ルール」となっています。
そのため、このルールに反した場合には
信用失墜,販売不調,株価下落などの「社会的制裁」を受けることになります。

この指導原則の一部を法制化している国もあります。
・イギリス 現代奴隷法(2015年)
・フランス 企業注意義務法(2017年)
・ドイツ サプライチェーン・デューディリジェンス法(2021年)
この場合はその法律により法的制裁や損害賠償を受けます。

似ているものに「企業の社会的責任(CSR)」という考え方があります。
大企業の不祥事、独善的な活動に対する社会的批判により広く認められました。
ISO26000ではその内容として
「説明責任,透明性,倫理的な行動,利害関係者(ステークホルダー)への配慮,
法令順守,人権尊重」を挙げています。 → こちら

もともと国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」は
多国籍企業が進出国で環境汚染をして住民の人権侵害を起こしたが、
その企業の恩恵を受ける政府が問題を解決しなかったので国連で取り上げられたものです。
それが上の「企業の社会的責任」の考え方に背中を押されて、
その焦点が「多国籍企業の進出国での環境破壊・人権侵害」から「製造過程での人権侵害」に移っていったものです。

それでは、国連の挙げる「責任の内容」を逐条的に見ていきましょう。
①~㉛までありますが、本稿に関係ないもの,私が理解できないものは項目だけを挙げます。
読者において補完してください。

c.用語の簡単な説明

◯バリューチェーンとサプライチェーン

バリューチェーン
・価値を造り出すための一連の流れ。
・企業活動を価値連鎖 ( 価値が作り上げられる過程 ) としてとらえる。
・原材料調達,製造,流通,販売,アフターサービスなどの事業活動が絡み合って製品の 価値を造り出している。

サプライチェーン
・供給連鎖
・製品やサービスが顧客に届くまでの企業の事業活動。
・「原材料調達 → 製造 → 流通 → 販売 → アフターサービス」の一連の流れ。
・企業活動を「製品やサービスがどのように供給されていくか」と捉える。

バリューチェーンとサプライチェーンの違い
・製品やサービスができるまでの過程を「価値が付加されていく過程」とみるか「供給の過程」とみるかの違い。
・「製品やサービスが作られる過程に関係する人たち」を「バリューチェーンに関わる人たち」とか「サプライチェーンに関わる人たち」というが大きな違いはない。
・バリューチェーンという言葉を使えば企業の社会的責任を次のように説明できる。
「価値連鎖の頂点で利益を上げる大企業はその価値が作り上げられる過程での人権侵害に対して責任を負わなければならない。」そのためサプライチェーンという言葉を使うより説得力がある。

◯ステークホルダーとライツホルダー

ステークホルダー
・企業のあらゆる利害関係者
・株主,経営者,従業員,顧客,取引先,金融機関,行政機関,国家
・利益でも損失でも何らかの影響を企業に及ぼす存在。

ライツホルダー
・企業の活動を通じて人権を侵害されている・侵害される可能性のある人

ステークホルダーとライツホルダーの違い
・人権を侵害する者と侵害される者の両方を含むのがステークホルダー。
・人権を侵害される者がライツホルダー。
・ステークホルダーには人権を侵害される者を含むので、
「ステークホルダーへの人権侵害」と言っても「ライツホルダーへの人権侵害」と言っても大差はない。



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