●「国連のビジネスと人権に関する指導原則」に逆行する津市

国連の指導原則に逆行する津市

「そろそろ」ですかね…。



3.国家の人権保護義務

国連の指導原則は次の三つに分かれます。
Ⅰ.国家の人権義務
Ⅱ.企業の人権義務
Ⅲ.救済手続き

この中で、「企業の人権保護義務」がよく取り上げられています。

a.国家が企業に働きかけをする義務

①国家は企業を含む第三者による人権侵害から個人を保護しなければならない。
そのために実効性ある政策や立法を行い、
人権侵害を防止,処罰,補償をしなければならない。


②国家は「すべての企業がその活動を通じて人権を尊重しなければならない」という表明をしなければならない。

③国家は個人の人権を保護するために次のことを行わなければならない。
・定期的に法律の適切性を調べる。不備があればそれを補填するよう企業に求めるor法律改正をする。
・企業が「人権尊重が行える」ような法律や政策を作る。
・企業に対して「人権をどのように尊重するか」について実効的な指導をする。
・企業に対して「人権尊重にどのように取り組んでいるか」の情報を要求する。


これは国家と企業が何の関係もない場合の国家の人権保護義務です。
国家が第三者として企業に人権保護義務を守らせるための国家自身の義務です。


●津市についての検討

ここでは津市を国家とみたてて、津市と一般企業との関係を考えてみます。

津市は「津市公契約条例」を定めています。
この条例は「津市発注の業務について津市と受注者に適用されるもの」です。
しかし、将来的に受注者となる者にも適用されるので「津市と一般企業との関係を規律するもの」と言えます。
そこで、この条例が指導原則の①,②,③を満たしているかどうかを検討します。

津市公契約条例では
・受注者の法令順守義務
・労働者の違反申告
・発注者である津市の調査権限,是正命令権,契約解除権,契約解除による損害賠償権
などを定めています。
※津市公契約条例 → こちら

津市公契約条例は国連の指導原則の①と②はクリアーしています。
しかし、③をクリアーしていません。

③をクリアーするためには
・「その条例が人権侵害を適切に防いでいるのか」を定期的に調べる。
・不備があれば改正し、改正するまでは企業にその不備を補うように求める。
・企業に対して「人権尊重をどのように行うか」実効性のある指導をする。
・企業に対し「どのように人権尊重に取り組んでいるか」の情報を求める。

津市は「条例を制定しただけ」でこんなことをしていません。

津市は国連の指導原則の「第三者として企業に働きかける義務」を果たしていないことになります。
しかし、この点は本稿が問題とする「受注者の違法労働に対する津市の責任」から外れますのでこのくらいに。

b.国家と企業がつながっている場合

④国家は、国家が所有・支配している企業、国家の支援を受けている企業による人権侵害に対して
「人権デュー・ディリジェンス」などの人権保護のための追加的処置をとらなければならない。

※人権デュー・ディリジェンス(Due Diligence)
・デュー・ディリジェンスとは証券界の用語です。
・投資する前に投資対象となるものの価値や危険を調査すること。
・事前に「その企業が人権侵害をする危険があるかどうか」、事後に「人権侵害をしていないかどうか」を調査することです。
・「人権影響評価」ともよばれています。
・以下では分かりやすく「人権侵害調査」としました。

①~③は国家と企業がつながっていない場合の国家の人権保護義務です。
④は国家が企業とつながっている場合の国家の人権保護義務です。
その企業を国家が支配している場合,国家が影響力を持つ場合,国家が支援を与えている場合です。
独立行政法人,日本郵便,国公立大学,公立博物館などでしょう。

この場合は「国家が企業と商取引をする場合」より人権保護義務が重くなります。

国家と企業のつながりは企業が国家に近ければ近いほど強くなります。
具体的には企業活動が法的根拠に依存すればするほど、その財源が税金に依存すればするほど強くなります。
そして国家と企業のつながりが強くなれば強くなるほど、その企業の活動に対する国家の人権保護義務は重くなります。

国が第三者の立場で企業に対して「人権を尊重しなさい」というのなら、
国が企業とつながっている場合は「自らが率先して人権を尊重しなければならない」のは当然のことだからです。

ここで、「人権侵害調査などの追加的処置を取らなければならない」としていますが、
「人権侵害調査」は単に国家と企業が商取引をする場合にも要求されます。
人権侵害調査は単なる例示です。
人権侵害調査うすれば追加義務を果たしたことになるわけではありません。

●津市についての検討

津市の場合で言えば市立高校や中学、競艇場や競輪場。
補助金を出している自治会や各種団体も含まれるでしょう。

本稿で問題にしている「津市が業務委託をする場合」はここに該当しません。
次の「国家が企業と商取引をする場合」がそれです。

⑤国家が人権の享受に影響するサービスを民営化する場合(省略)

c.国家が企業と商取引をする場合

⑥国家は、国家が商取引をする相手企業による人権尊重を促進すべきである。

①~③は国家と企業が何の関係もない場合
④は国家と企業がつながりのある場合
⑥は国家と企業がつながりがなく、一般的な商取引をする場合です。

●津市についての検討

津市が業務委託をしたり物品を購入したりする場合がこれに該ります。
これは企業が企業と商取引をする場合と同じなので「企業の人権保護義務」と同じです。
次の「企業の人権保護義務」で説明します。

※⑦~⑨は省略
⑦紛争影響地域において企業の人権尊重を支援すること
⑧国家の人権尊重に対する法令や政策は一貫性がなければならない
⑨他の国家や企業と経済合意を行う場合
⑩ビジネスに関連した問題を扱う多数国家機関の加盟国として行動する場合



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