●「国連のビジネスと人権に関する指導原則」に逆行する津市

国連の指導原則に逆行する津市

よく見ると「そろそろ」ですね。



4.企業の人権保護義務

⑪企業は人権を尊重しなければならない。
・企業は自ら人権を侵害してはいけない。
・企業は取引関係を通じて「人権侵害に影響を与えてはいけない」


※「人権への負の影響」=「人権侵害」としました。

「⑥国家が企業と商取引をする場合」もここに該ります。
「④国家が企業とつながりのある場合」もここに該ります。
ただし、そのつながりは法的根拠に依存すればするほど、その財源が税金に依存すればするほど強くなり、
その人権保護義務が重くなります。

●津市についての検討

津市が業務を委託する場合は「⑥国家が企業と商取引をする場合」です。
津市と受注者の間には「企業と企業の間の人権保護義務」が適用されます

a.人権の意味

⑫企業が尊重しなければならはない人権とは国際的に認められた人権である。

企業活動は国を超えて世界的な規模に広がるからです。

1948年の世界人権宣言では、
生命の権利,労働の権利,健康への権利,教育の権利などが具体的に規定されています。 → こちら

環境破壊も人権侵害となります。
もちろん、違法労働は人権侵害となります。

b.企業が人権侵害の責任を負う場合

⑬企業が責任を負う人権侵害の範囲と責任の重さ

a.自身が行った人権侵害。「商品製造過程の人権侵害」で自身が助長したもの。

この場合は人権侵害や助長を止め発生した人権侵害に対処しなければならない。

b.「商品製造過程の人権侵害」で取引関係によって自身の商品に直接関係するもの。

この場合は人権侵害を防止・軽減するように努める。

●責任を負う場合

A社とB社が取引をしている場合、A社が責任を負う人権侵害の範囲は
・A社が引き起こした人権侵害 ( a )
・B社の人権侵害でA社が助長したもの ( a )
・B社の人権侵害がA社とB社の取引に直接関係する場合 ( b )

この3場合について法務省は次のように説明しています。
※法務省の説明「企業が人権への影響を配慮すべき状況」(6頁)

①.Cause(人権侵害を引き起こしている)
例 : 自社の従業員に違法な時間外労働をさせた。

②.Contribute(人権侵害を助長している)
例 : 委託企業に無理な要求をしたために委託企業が違法な時間外労働をさせた。

③.Linkage(人権侵害が、取引関係によって直接結びついている)
例 : 業務委託を受けた企業がその業務で違法な時間外労働をさせた。
※業務委託を受けた企業の違法な時間外労働を助長していないが
業務委託という取引関係によって違法な時間外労働と結びついている。
※「例」は筆者

③をもう少し説明すると。
・A社がB社の商品を購入、B社はC社にその商品の製造を委託。C社がその商品の製造時に違法労働の人権侵害。

・C社の人権侵害はB社とC社の業務委託という取引関係に直接関係する → B社はC社の人権侵害に対して責任を負う。
・C社の人権侵害はA社とB社の商品売買という取引関係に直接関係していない → A社はC社の人権侵害に対して責任を負わない。

例では労働者を上げていますが、人権侵害の対象となるのは労働者だけではありません。
「その事業活動に利害関係を持つ“すべての人”」です。
取引相手,顧客,消費者,事業活動を行う地域の住民などを含みます。

●人権侵害に対してどのような責任を取らされるか

・自ら引き起こした場合,助長した場合
・その人権侵害に関与しているので責任が重くなります。
・「人権侵害に対して対処する」というのは「その人権侵害に対する被害回復・補償を含む」の意味でしょう。

・助長していなが取引に直接関係する人権侵害
・その人権侵害に関与していないので責任が軽くなります。
・「人権侵害を防止し軽減する」とされています。

「防止し軽減する」は「その人権侵害に対する被害回復や補償まで要求していない」でしょう。
しかし、B社に違法労働を止めるように働きかけたり、B社が違法労働をしないですむように契約条件を改善したり,B社が違法労働をやめないようなら契約を解除したりしなければなりません。
B社の違法労働について関係機関に情報提供をすることもしなければならないでしょう。


●津市についての検討

津市が受注者の違法労働・人権侵害の責任を負う場合

津市が助長した受注者の人権侵害
・予定価格が低い → 最低賃金より低い賃金,社会保険に加入しない,労働環境が悪い。
・「最低落札価格なし」で安値競争 → 最低賃金より低い賃金,社会保険に加入しない,労働環境が悪い。
・業務開始までに断続的労働の適用除外許可が取得できない入札期日 → 断続的労働の適用除外許可なしの違法労働。
・業務開始までに裁定賃金の減額許可が取得できない入札期日 → 裁定賃金より低い賃金での違法労働。
・受注者に断続的労働の適用除外許可書や最低賃金の減額許可書の提示を求めていない → 無許可違法労働。

( どのような責任を取らされるか )
・津市が受注者の違法労働に関与しているので被害回復・補償の責任を負います。
・津市公契約条例で定める受注者への是正勧告,指名停止,契約解除,損害賠償,関係機関への通報は当然のことです。

津市が助長していない場合
・受注者の違法労働は津市との業務委託に直接関係するので津市の責任が及びます。

( どのような責任を取らされるか )
受注者の人権侵害に津市が関与していないので関与している場合より責任が軽くなります。
被害回復や補償は含まれないでしょう。
「その人権侵害を防止・軽減」しなければならないので、
津市公契約条例で定める受注者への是正勧告,指名停止,契約解除,損害賠償,関係機関への通報をしなければなりません。

このように、業務委託の場合は「津市が受注者の違法労働にまったく関与していない場合」でも受注者の違法労働に対して責任を負わされます。
それが現代の社会的ルールです。

「受注者が無許可労働をさせるかどうかは受注者の問題で津市には関係ありません」というガラパゴス論理は現代では通用しないのです。

c.企業の範囲

⑭企業の人権保護義務はすべての企業に適用される

多国籍企業や価値連鎖の頂点に立つ大企業だけではありません。
企業規模,業種,組織構造に関わらずすべての企業に適用されます。

d.企業がしなければならないこと

⑮企業が人権保護義務を果たすためには次のことをしなければならない。
a.人権保護義務を果たすという声明を出す。 → ⑯
b.人権保護義務を果たすための方法を設ける。 → ⑰~㉑
c.自身が引き起し、助長した人権侵害を是正する方法を設ける。 → ㉒,㉓


これは「人権侵害が発生したときに負う責任」ではありません。
企業が「人権保護義務・責任を果たすために何をしていなければならないのか」という基準です。
これをしていないと「人権侵害が発生していなくても」人権保護義務・責任を果たしているとは言えません。
そして、人権侵害が発生した場合には「それを防げるのに防がなかった」として、その人権侵害に対してより重い責任が課せられることになります。


声明を出す

⑯企業の出す「人権保護義務を果たす」声明に必要なもの
・企業の最上級レベルで承認されている。
・専門的助言を得ている。
・製品やサービスの製造過程に関係する全ての人の人権に対するものである。
・公開されている。
・企業全体に定着させる仕組みがある。


●津市についての検討

津市公契約条例は声明としての要件を満たしています。


人権侵害調査を行う

⑰人権侵害調査(人権デュー・ディリジェンス)を行う。

その人権侵害調査は次の五つのことを満たさなければなりません。

⑱人権侵害調査では「起こりうる潜在的な人権侵害も対象にする」ため
独立した外部の専門知識や製造過程に利害を持つ者(ステークホルダー)の意見を聞く。


⑲人権侵害調査の結果を企業の意思決定や活動に組み込む。そのための予算と責任を確保する。

⑳組み込んだあとに「人権侵害が発生していないか」を追跡調査する。

㉑製造過程に利害を持つ者が企業の取り組みについて知ることができるように情報開示をする。

㉒救済手続きを作る
人権侵害をいくら防止しようとしても想定外の人権侵害は起こってしまいます。
人権侵害が起きたときにそれを訴えて救済される方法がなければなりません。
救済手続きの対象は「製造過程で利害関係を持つ全ての者」です。
単に委託先企業の労働者だけではありません。


津市についての検討

以上を津市について検討してみると。

・⑰人権侵害調査 → ×
・人権侵害調査を自体をやらないのだから、人権侵害調査の要件⑱~⑳は全て×
・㉒苦情処理 → △
※津市公契約条例では労働者の違反申告窓口を作っています。
しかし、対象を「その業務を行う労働者」だけに限定しています。
国連の指導原則の求める「苦情処理の対象」は「商品やサービスが作られる過程に利害関係を持つ全ての者」です。
そのため、救済手続きの要件を満たしていません。

津市は人権侵害調査をしていないので、自身の人権保護義務を果たしていません。

そのため、業務委託の受注者が違法労働・人権侵害を起こした場合、
津市がそれを助長していなくても「助長した」とみなされます。
「その人権侵害は人権侵害調査をしていれば防げた」からです。
「人権侵害調査をしなかったことにより人権侵害が助長された」と言えるからです。

津市調達課の方は次も読んでくださいネ。
・今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応 ( 法務省人権擁護局 )
第3章企業による人権への取組の在り方 → こちら

㉓,㉔省略

5.救済手続き

人権侵害が生じたときの救済手続きを置くことも人権保護義務に含まれています。
・国家の救済手続きの要件 → ㉕~㉘
・非司法的手続きの要件 → ㉙~㉛

●現在のところ理解できませんので指導原則を「そのまま」上げるだけにとどめます。

㉕ビジネスに関連した人権侵害から保護する義務として、国家は、その領域及び/または管轄内において侵害が生じた場合に、司法、行政、立法またはその他のしかるべき手段を通じて、影響を受ける人々が実効的な救済にアクセスできるように、適切な措置を取らなければならない。

㉖国家は、企業活動に関連した人権侵害に対処する際に、国内の司法メカニズムの実効性を確保するため、救済へのアクセス拒否になるような法的、実際的及びその他これに関連するような障壁を減らすための方策を考えるなど、しかるべき手段をとるべきである。

㉗国家は、ビジネスに関連した人権侵害を救済するための包括的な国家制度の一部として、司法的メカニズムと並行して、実効的で適切な非司法的苦情処理メカニズムを設けるべきである。

㉘国家は、ビジネスに関連した人権侵害を取り扱う、実効的な非国家基盤型苦情処理メカニズムへのアクセスを促進する方法を考慮すべきである。

㉙苦情への対処が早期になされ、直接救済を可能とするように、企業は、負の影響を受けた個人及び地域社会のために、実効的な事業レベルの苦情処理メカニズムを確立し、またはこれに参加すべきである。

㉚産業団体、マルチステークホルダー、及びその他が関わる協働型の取組みで人権に関連する基準の尊重を基礎にするものは、実効的な苦情処理メカニズムを備えているべきである。

㉛の実効性を確保するために、非司法的苦情処理メカニズムは、国家基盤型及び非国家基盤型を問わず、次の要件を充たすべきである。

a.正当性がある:利用者であるステークホルダー・グループから信頼され、苦情プロセスの公正な遂行に対して責任を負う。

b.アクセスすることができる:利用者であるステークホルダー・グループすべてに認知されており、アクセスする際に特別の障壁に直面する人々に対し適切な支援を提供する。

c.予測可能である:各段階に目安となる所要期間を示した、明確で周知の手続が設けられ、利用可能なプロセス及び結果のタイプについて明確に説明され、履行を監視する手段がある。

d.公平である:被害を受けた当事者が、公平で、情報に通じ、互いに相手に対する敬意を保持できる条件のもとで苦情処理プロセスに参加するために必要な情報源、助言及び専門知識への正当なアクセスができるようにする。

e.透明性がある:苦情当事者にその進捗情報を継続的に知らせ、またその実効性について信頼を築き、危機にさらされている公共の利益をまもるために、メカニズムのパフォーマンスについて十分な情報を提供する。

f.権利に矛盾しない:結果及び救済が、国際的に認められた人権に適合していることを確保する。

g.継続的学習の源となる:メカニズムを改善し、今後の苦情や被害を防止するための教訓を明確にするために使える手段を活用する。
事業レベルのメカニズムも次の要件を充たすべきである。

h.エンゲージメント及び対話に基づく:利用者となるステークホルダー・グループとメカニズムの設計やパフォーマンスについて協議し、苦情に対処し解決する手段として対話に焦点をあてる。



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