「社会保険に加入してくれない…。」
「有休休暇を取らせてもらえない…。」
ハ、ハ、ハ、
残業分は支払ってくれるのでしょう?
最低賃金以上の額なのでしょう?
それなら「上等、上等」。
この業界では「基準法違反」が当たり前。
基準法違反は「やった者勝ち」。
監督署に指摘されたら「その時から」守ればよい。
過去の違反は追及されない。
監督署は「そこで働いている者,働いていた者」の違反申告がなければ動かない。
それ以外の者が違反情報を知らせても動かない。
この業界で「基準法を持ち出したら」干されてしまう。
「きつい現場に回される」、「仕事を与えてもらえない」。
結局は「辞めなければならない」。
監督署に違法申告をする者なんているはずがない。
この業界に労働基準法は存在しないのです。
えっ?
「業務の発注者が基準法違反に文句を言ってくる」ですって?
国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」のことですね。
国の「ビジネスと人権に関する行動計画」のことですね。
「企業はその製品が作られる過程で人権侵害がないように配慮しなければならない」という「社会的責任」ですね。
どこかの芸能事務所の人権侵害で注目されているアレですね。
そんな「社会的責任」にビクビクするのは「世間体を気にする」大企業だけ。
自ら率先してやらなければならない地方公共団体すら全く気にしていませんから。
落札価格が高くなるので、発注した業務の違法労働は見て見ぬふり。
前回は「警備業界の実態」を説明。
今回は「労働基準法の守護神である労働基準監督署」について。
2.監督署は怖くない
『そんな馬鹿な!』
『労働基準監督署が黙っちゃいなでしょう!』
『監督署は警察と同じ捜査権や訴追権を持っているでしょう?
基準法に違反した業者を捕まえて刑務所に送ることができるじゃないですか!』
と思うでしょう?
しかし…
※注意
以下の記述は「私の実感」に過ぎません。
私は労基法違反で監督署の指導を受けたことも取り調べや送検されたこともありません。
記載内容と異なる事態になっても一切の責任を負いません。
a.監督署は労働者の申告がなければ動かない
労働基準監督署の監督官は労働基準法違反について警察と同じ権限を持っています。
( 労基法102条 )
しかし、これは最後の最後。
「そういう権限がある」というだけの飾り物。
通常は立ち入り調査だけ。
しかもこの調査を開始するのは次の場合だけ。
①自分たちの調査計画
②その事業所での労働災害の発生
③そこで働いている労働者からの違反申告
その法的根拠は分かりませんが、そのように運営しているようです。
※労働者が申告できるとする規定はあります ( 労働基準法104条 )
外部からの違反情報により「①の計画」に組み入れることはあるでしょう。
しかし、「それが大きな社会問題として世間の注目を集めているもの」でなければまず組み入れないでしょう。
行政が動くのはいつも「世間が騒いでから」です。
「自分が動かないと世間から批判されそうになってから」です。
どこかの宗教団体、どこかの中古車販売店。
世間が騒いでから「我も我も」と動くのです。
監督署は警備業界の基準法違反なんか相手にしません。
労働者の違反申告があってやっと重い腰を上げる程度でしょう。
『仕方がないなぁ…。忙しいんだけど…。ちょっと調べてみるか…。』
警備業者さん心配しないでくださいね。
雇っている警備員が監督署にチクらなければ監督署はやって来ませんから。
b.是正勧告で無罪放免
36協定以上の残業をさせていた。
最低賃金より低い賃金しか支払っていなかった。
これを労働者が監督署に申告した。
監督署がやって来た。
最悪は
・労働時間制限の違反(労基法32条)で6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法119条)
・最低賃金法違反(最賃法4条2項)で50万円以下の罰金(最賃法40条)
これだけでは済みません。
・懲役なら警備業者の欠格事由に該るので「警備業の認定取り消し 」( 警備業法3条 )
・罰金なら認定取り消しになりませんが、公安委員会の臨時立入。
そこで重箱の隅をつつかれて営業停止や認定取り消し。
・世間体を気にする発注者が契約解除。
しかし、こんなことにはなりません。
監督署は警察とは違います。
「悪いヤツを刑務所に放り込んでやる!」と意気込んでいません。
そもそも彼らは司法手続きに馴れていません。
逮捕令状請求,逮捕,逮捕現場での捜索・押収,拘留,取り調べ,送検などやったことも見たこともないでしょう。
彼らは「うさぎ君」です。
吠えたり噛みついたりしません。
うさぎ君は「違法状態が解消されれば」それで満足するのです。
基準法違反をしていた事業者は「是正勧告」に従えばそれで無罪放免です。
『忙しかったのでついつい残業をさせてしまいました。これからしっかりと管理します。』
『えっ?最低賃金が上がったのですか?知らなかった!もちろん、賃金アップします。』
これで終わりです。
今までの基準法違反は許してくれます。
もちろん、賃金が最低賃金より低かった場合は「今までの差額」を労働者に支払わなければなりません。
しかし、それは民事上の問題なので監督署は関知しません。
労働者に「気持ちだけ」の一時金を渡して示談にすれば済むのです。
労働者から報告を受けたうさぎ君は『よかったですねぇ!』
スピード違反で白バイに停められた。
運転手『すいません!急いでいたもので…。今から制限速度を守ります。』
白バイ『お願いしまよ!では、安全運転で!』
これで終わり。
切符を切られることも免停になることもない。
そもそも、交通違反の取り締まりなんかやっていない。
これでは、スピード違反も飲酒運転もなくならないでしょう。
窃盗,強盗,詐欺,横領。傷害,殺人も同じこと。
しかし、これが労働基準監督署なのです。
「基準法違反なんか犯罪ではない」と思っているのでしょう?
c.「干す」という言葉
小さな営業所を任されているときに「干す」という言葉を知りました。
「遠い現場」や「パワハラ現場」、「早朝・深夜で2~3時間の短い仕事」。
嫌がった警備員に仕事を与えないのです。
「干された警備員」は収入が減るので食べていけなくなる。
そこで「言うことを聞くようになる」。
監督署に違反申告をした警備員をクビにすると問題になります( 労働基準法104条 )
干せばいいのです。
「干す」のは「自発的に辞めるまで」ジワジワと。
それでも辞めなければ「完全干し」。
「干した理由」は何とでも付けられます。
警備は「人相手の仕事」ですからね。
他の警備会社の警備員が面接にやって来ます。
私『なぜ、今の警備会社がダメなのですか?』
警『入った当初は毎日でも仕事がありました。
しかし、最近では週に1~2日しか仕事がありません。これでは食べていけません。』
アンタ、それは「干されて」いるんだよ。
もちろん、そんな人は雇いません。
あなたが監督署に「雇用主の違反申告」をしても、
雇用主は是正勧告だけで無罪放免。
社会的な制裁も受けない。
あなたは「干される」。
それでも違反申告をしますか?