「まだ頑張りますか?」
- 独占禁止法を簡単に
- 不当な取引制限と排除型私的独占
- 不公正な取引方法・不当廉売
- コスト計算,落札状況,津市がやらなければならないこと
5.津市宿直業務委託のコスト計算
a.計算基準
勤務は1ポスト・平日15.5時間,休日24時間の宿直業務。
いわゆる断続的労働です。
断続的労働で一番コストが安くなるのが「1名配置で最低賃金の減額許可を得て賃金を減額する」場合。
宿直業務では一般的に用いられている方法です。
○減額率
2022年度にこの業務について当方が得た最低賃金の減額許可の「実労働時間数,減額率」を使います。
(平日)
・所定労働時間=915分(1ポストのため休憩なし)
・実労働時間 =180分(巡回6回)
・減額率(%)=32.13%
(休日)
・所定労働時間=1440分(1ポストのため休憩なし)
・実労働時間=230分(巡回7回)
・減額率= 33.61%
※注意
平日と休日の「所定労働時間と実労働時間 」 が異なる場合は次のようにします。
・その労働者の一定期間の勤務予定から所定労働時間の合計と実労働時間の合計を出す。
・それを勤務予定日数で除して勤務日1日当たりの所定労働時間と実労働時間を出す。
・その所定労働時間と実労働時間を使って減額率を計算する。 → こちら
ここでは計算を簡単にするために、平日の減額率と休日の減額率を別々にして日当を計算しています。
○最低賃金
・最低賃金は三重県・2022年4月の902円を使います。
・2022年10月より933円に上がりましたがその分は加算しません。
そのため、コストは算出した額より高くなります。
○必要人員
・通常「2名を配置し、隔日勤務」で行います。
・この場合は、「明け休み(休息期間)」の他に1カ月に2日の休日が必要です。 → こちら
・「休日4日要員」1名を合わせると必要人員は3名となります。
・ここでは計算を簡単にするために、この休日要員1名を考えずに「全て2名でやること」にします。
b.一カ月の賃金
●平日の日当
・減額した時間給=最低賃金×(1-減額率)
=902円×(1-0.321)=612.458円≒613円
※減額率は%の小数点第2位以下切り捨て: 32.13% → 32.1%
※1円未満切り上げ
・日当=減額時間給×(所定労働時間+深夜労働時間×0.25)
=613×(15.25+7×0.25)=613円×17=10421円以上 → 10500円
●休日の日当
・減額した時間給=最低賃金×(1-減額率)
=902円×(1-0.336)=598.928≒599円
※ 減額率は%の小数点第2位以下切り捨て: 33.61%→33.6%
※ 1円未満切り上げ
・日当=減額時間給×(所定労働時間+深夜労働時間×0.25)
=599×(24+7×0.25)=599円×25.75=15424.25円以上 → 15500円
●平日と休日の日数
・契約は5月1日~翌3月31日の11カ月。4月1日~4月30日は同条件で予約事項。
・入札価格はこの11カ月分を11で除して1カ月分の価格とする。
・2022年5月1日~2023年3月31日の11カ月。
・平日 / 223日、休日 / 112日
●1カ月の賃金合計
・(平日日当×平日数+休日日当×休日数)÷11カ月
=(10500×223+15500×112)÷11=4077500÷11≒370682円
c.一カ月のコスト
➀賃金
・370682円/月
②労働保険事業主負担分
・6.5/1000+13.5/1000=20/1000
・370682円×20/1000≒7414円/月
③健康保険料・厚生年金事業主負担分 → こちら
・2名で業務を行う → 1名分の月給 → 370682円÷2=185341円
・厚生年金13等級+健康保険(40歳以上/介護保険2号)16等級
→ 17385円+11029円=28414円/名×2名 → 56828円/月
④有給休暇負担分
・1名につき10労働日/年 → 宿日直5回分
→ 10500円×5回×2名÷12月=8750円/月
⑤新任教育手当
・1名につき20時間/年 → 902円×20時間×2名÷12月≒3007円/月
⑥制服装備品消耗
・1名につき1年で10000円 → 10000円×2名÷12月≒1667円/月
⑦交通費
・日額500円 → 500円×335日÷11月≒15227円/月
⑧寝具
・断続的労働の適用除外許可に必要。
・10000円×2名÷12≒1667円/月
⑨警備室などで消費する消耗品
・断続的労働の適用除外許可に必要。
・2000円/月
⑩警備業者責任賠償保険料増加分(概算)
・24000円/年 → 2000円/月
●一カ所受注した場合のコスト=➀~➉の合計=469242円 → 46.9万円
●2023年度の最低賃金933円で同じように計算すると482475円 → 48.25万円
これが利益なしの原価です。
次に実際の落札価格をみてみましょう。
コスト割れしていたら独禁法違反の可能性があります。
6.落札状況と分析
a.落札状況
・発注件数8件:①庁舎,②学校,③庁舎,④庁舎,⑤庁舎,⑥庁舎,⑦庁舎,⑧庁舎
・参加業者8社:A社,B社,C社,D社,E社,F社,G社,H社
・月額・税抜き
・⑧庁舎は距離的に遠いため「無競争」。
・60万円以上はパス価格(初めから取る気のない価格)。
・案件により8社のうち入札辞退をしたものあり。
①庁舎
・2021年度:①A・39.2万・落札
・2022年度:①A・40.7万・落札②H・48.9万 ③以下は60万以上
・2023年度 : ①A・28.9万・落札 ②H・41.8万 ③以下は60万以上
※2022年:A・42.9万が予定価格超え。A以外再入札を辞退。Aが再入札と再々入札で落札)
②学校
・2021年度 : ①H・35.4万・落札 ②B・37.5万 ③E・37.6万 ④以下は60万円以上
・2022年度 : ①B・32.9万・落札 ②E・33万 ③H・35.2万 ④以下は60万円以上
・2023年度 : ①B・34.0万・落札 ②E・34.5万 ③H・41.8万 ④以下は60万円以上
③庁舎
・2021年度 : ①C・39万・落札
・2022年度 : ①C・34万・落札 ②H・48.9万 ③以下は60万以上
・2023年度 : ①C・34万・落札 ②H・41.8万 ③以下は60万以上
④庁舎
・2021年度 : ①A・41万・落札
・2022年度 : ①H・38.9万・落札 ②A・42.98万 ③以下は60万以上
・2023年度 : ①A・27.45万・落札 ②H・42.4万 ③以下は60万以上
⑤庁舎
・2021年度:①D・39万・落札
・2022年度:①D・落札(当方辞退のため価格不明)
・2023年度:①D・33万・落札 ②H・43.8万 ③以下は60万以上
⑥庁舎
・2021年度:①A・39.5万・落札
・2022年度:①A・39.9万で受託 ( 予定価格超えのため不調、その後協議で決定)
・2023年度 : ①A・31.45万・落札 ②H・59.63万 ③以下は60万以上
⑦庁舎
・2021年度:①E・40万・落札
・2022年度:①E・34万・落札 ②B・35万 ③A・57.1818万 ④以下は60万以上
・2023年度:①E・39万・落札 ②B・40万 ③H・59.63万 ④以下は60万以上
⑧庁舎
・2021年度:①F・40万・落札
・2022年度:①F・46.2万・落札
・2023年度 : ①F・47.5万・落札 ②H・59.63万 ③以下は60万以上
b.状況分析
●コストは2022年で46.9万円,2023年で48.25万円
このコストに近いのは無競争の⑧庁舎だけ。
①~⑦は全て「コスト割れ」。
もっとも、次で説明するように津市は「予定価格自体がコスト割れ」という「人権無視の調達」を行っています。
そのため、落札価格がコスト割れになるのは当然のことです。
津市の場合は、その落札価格が予定価格を大きく離れてないければ「公正な ( ? ) 競争を害しない」と言えるかもしれません。
しかし、予定価格を大きく離れていれば、問題なく「独禁法の禁止するコスト割れ対価」となります。
①~⑦で前年落札価格より高いのは②,③,⑤,⑦
しかしコスト割れは2023年度で
②14.25万円,③14.25万円,⑤15.25万円,⑦9.25万円
●前年落札価格より安いのは①,④,⑥
①は前年より30%安(11.8万安)で、コスト割れ19.35万円
④は前年より29.4%安(11.45万安)で、コスト割れ20.8万円
⑥は前年より21.5%安(8.4万安)で、コスト割れ16.75万円
「その落札価格が独禁法の禁止するコスト割れ対価になるかどうか」は公取委の判断となります。
7.津市のやらなければならないこと
以上の状況から「不当な取引制限」,「コスト割れ対価による私的独占」,「不当廉売」の何を読み取るかは「公取委の判断による」ので私の素人判断は控えます。
しかし、「独禁法違反の行為が問題になる」ことは確かです。
津市が注目しなければならないのは
「現在の落札価格が独禁法の禁止するコスト割れになっている」こと。
「現在すでに独禁法違反の状態が生じている」ことです。
「この違法状態」を解消するために津市は次のことをやらなければなりません。
①委託する発注業務のコスト計算をして適正な予定価格にする。
②コスト計算に基づいた最低落札価格を設定する。
①コスト計算をする
●予定価格自体がコスト割れ
2022年の調達では①庁舎と⑥庁舎の予定価格が①40.8万円,⑥40万円。
これは2022年コストの46.9万円を大きく割っています。
※「予定価格オーバー」で再入札や不調後の協議で①40.7万円,⑥39.9万円になったことから予定価格を推定。「予定価格オーバーとならなかった案件も同様の予定価格だった」はずだから他の案件も「予定価格がコスト割れ」。
●「最低賃金の減額許可制度」を知らない?
この点を津市長に糺したところ
次のような「トンチンカン回答」。
「業務委託の入札等における予定価格については、
警備業務に限らず多くの業種において、建設工事等における設計積算のような統一された積算体系が存在しないため
過年度の契約金額や業者からの参考見積書などを参考とした実勢価格により調定する方法や
業務に必要な各種経費を積算して調定する方法があり
各発注課において方法を選択し、積算を行って調定していますが、
予定価格の積算方法については、いただいた御意見も参考に改めて検討します。」 → こちら
どうも「最低賃金の減額許可の減額率」を知らないようです。
さらに、人件費を算出して入札価格を決めるのに、
最低賃金の減額許可の減額率が必要だから「実際の実労働時間数」を質問したら
回答は「戸籍受理や緊急対応が含まれるので時間数を示せない」とか。
「総合支所の警備業務は、巡回警備の他に、戸籍に関する届出の受け付け、埋火葬許可書の発行、庁舎の入退出確認、火災等の緊急対応、施設の使用許可申請受け付けなど、様々な対応があり、それらへの対応時間等を仕様書に記載することは困難」 → こちら
なんと「最低賃金の減額許可では戸籍受理や緊急対応は実労働に入らない」ことを知らないのです。
ご丁寧に「各支所の想定実労働時間数」に次のように「受付業務や緊急対応業務」を入れる始末。
「受付業務(20分~60分)。状況によって変動あり)
・戸籍に関する届け出の受付
・郵便物等の受付
・緊急等の電話対応 など。」 → こちら
このような「津市長の無知」も問題ですが、
「予定価格のコスト割れ」はもっと大きな問題となります。
「予定価格がコスト割れ」なら「落札価格はコスト割れ」となります。
「コスト割れでないと落札できない」からです。
つまり「津市が独禁法で禁止するコスト割れ落札を求めている」ことになるのです。
「黙認している」や「認めている」のではありません。
「求めている」のです。
「津市が入札者に独禁法違反を求めている」のです。
「行政が住民に違法行為を求めている」のです。
今まで「断続的労働の適用除外許可や最低賃金の減額許可など関係なしに」やってきたのでしょう。
津市長が「最低賃金の減額率によるコスト計算を知らない」のも頷けます。
多分、予定価格は「前年度の落札価格に何%か上乗せする」という「どんぶり勘定」だったのでしょう。
しかも、それが「津市自らが違法落札を求めていることになる」と気付いていないのです。
まさに、『あとは煮るなり焼くなりソチの好きにせよ、越後屋…。』の時代錯誤。
早急に「コスト割れ予定価格」を「正しいコスト計算に基づく適正な予定価格」にしなければなりません。
そうしないと独禁法違反の教唆,幇助どころか間接正犯の可能性も出てきます。
もはや「お代官様と越後屋の時代」ではないのです。
不思議なのは「このような予定価格の違法性を今まで誰も問題にしなかった」こと。
市長はもちろんのこと、調達契約課の職員も、受注業者も、そして市会議員も。
いったい「彼ら」は何をしているのでしょう。
これが地方行政のレベルなのでしょうか。
津市は三重県の県庁所在地なのですが…。
②コスト計算に基づいて最低落札価格を設定する
「コスト割れ予定価格」を「適正な予定価格」に変更しても、津市の業務調達にはまだ問題があります。
それは「最低落札価格なし」。
「1円でも良い」という「無制限な最低落札価格なし」。
落札できるかどうかは「安さだけ」。
これは津市公契約条例が防ごうとする「業者間の競争の激化、落札価格の下落」を誘発し「労働者の賃金その他の労働環境の悪化」引き起こします。
さらに「独禁法の禁止するコスト割れ供給による私的独占や不当廉売を黙認している」ことになります。
確かに公共入札に於ける落札・受注には「地元への奉仕・利益還元」,「受注による宣伝効果・信用効果」があるので「ある程度の値引き」は考えられます。
しかし、「コスト割れ落札」では津市公契約条例の目的とする「優良な事業者の育成及び地域経済の健全な発展」は望めません。
自らが制定した公契約条例の目的を達するためにも、独禁法違反行為を防ぐためにも「1円でも良いという無制限な最低落札価格なし」から「利益は1円でも良いという最低落札価格なし」にしなければならないでしょう。
〇津市公契約条例・目的(1条)
「この条例は、公契約における業者間の競争の激化、落札価格の下落等による
労働者の賃金その他の労働環境の悪化が懸念されることに鑑み、
公契約に係る基本方針並びに本市及び受注者等の責務を定め、
並びにこれらに基づく施策を実施することにより、
労働者の労働環境の確保、優良な事業者の育成及び地域経済の健全な発展を図り、
もって労働者が労働意欲にあふれ、かつ、住民が豊かで安心して暮らすことのできる地域社会を実現することを目的とする。」 → こちら
公取委が動いて受注者が独禁法違反で刑事罰を受ければ、「コスト割れ予定価格」や「無制限の最低落札価格なし」を設定していた津市も独禁法上の刑事責任を問われます。
※コスト割れ予定価格 →独禁法違反行為の間接正犯,教唆犯,幇助犯が論じられる。
※無制限な最低落札価格なし → 独禁法違反行為の教唆犯,幇助犯が論じられる。
※未必の教唆故意・幇助故意、不作為の教唆行為・幇助行為,片面的幇助 が論じられる。
※津市公契約条例の津市の責務から「津市は独禁法違反のコスト割れ落札を防ぐ義務があり」、「何もしない こと( 不作為 ) 」は「それを唆したこと・認めたこと」と評価される。
すでに、「コスト割れ予定価格によるコスト割れ落札」が発生しています。
津市業務調達で独禁法違反の状態が生じているのです。
誰かが津市を独禁法違反で刑事告発 ( 刑訴239条 ) すれば、世間は興味本位で騒ぎ出します。
その結果、津市が刑事責任を課せられなくても、「国連の指導原則」を持ち出して社会的責任を追及してくるでしょう。 → こちら
もう「外堀を完全に埋められた状態」ではないでしょうか。
『受注者から「法令に違反しない旨の誓約書」を取ってあります!』
ここに至ってそんな「見苦しい言い逃れ」は通用しないでしょう。
そろそろ、「自発的に」適正な予定価格と適正な最低落札価格を設けてはどうでしょう。
「まだ頑張りますか?」
『…。』
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