間違いだらけの「警備員の宿直業務」

断続的労働の適用除外許可はこのようにして取得する。



1.断続的労働の適用除外許の基礎知識
2.断続的労働の適用除外許可の申請から許可まで
3.最低賃金の減額許可の申請から許可まで
4.断続的労働の適用除外許可の範囲を超えた違法労働業務①
5.断続的労働の適用所が許可の範囲を超えた違法労働業務②
6.「警備員はフリーパスの小間使い」の意識改革から
7.津市発注の警備員宿直業務のこれから

2.断続的労働の適用除外許可の申請から許可まで

監督署の監督官は2年くらいで転勤になる。
当方は以前に2か所で断続的労働の適用除外許可を得ているが別々の監督官だった。
今回も前の監督官が転勤していたので新しい監督官が担当した。

ここでは今回申請した内容と許可が下りるまでを説明しよう。

監督官が変ると添付を求められる資料も変わってくる。
以前に「許可申請の実際」という記事を書いているので比べて欲しい。 → こちら

a.申請した業務内容

新たに業務を受注し、断続的労働の適用除外許可を申請する場合には
業務内容を上述した「厚生労働省の許可基準内」のものにする必要がある。

この場合、前受注者が許可を取得していればその業務内容を参考にすればよい。
しかし、前受注者は「許可不要の労働時間6時間以内でつなぐ方法」で長年やっていたようだ。

そのため前受注者の行っていた業務には許可基準から外れる業務も含まれている。
それを許可基準に合う業務内容に変えなければならない。

その前に、支所担当に断続的労働の適用除外許可を理解させなければならない。
『そんな許可が要るンですか!』

まず、私が今まで行われてきた ( 引継ぎをした ) 業務をやってみる。
そこから、不要な業務,許可基準に合わない業務を省き、必要な業務を追加して許可基準に合わせる。
それを支所担当と折衝する。

「申請する業務内容」が固まったのは5月1日の業務開始から8日後。
5月9日に次の内容で許可申請をした。
※以下で「休日」とは24時間勤務を行う「土日,祝日,年末年始」のことで、労働者に与える休日ではない。

◯平日 ( 翌日も平日 )
・17:15 業務開始
①17:15~18:05 閉場業務 ( 50分 )
②22:00~22:30 細密巡回 ( 30分 )
・23:00~翌5:40 仮眠可能時間 ( 6時間40分 )
③5:50~ 6:10:外周巡回 ( 20分 )
④7:30~7:45:開場業務 ( 15分 )
⑤8:15~8:30:正面立哨・引継ぎ ( 15分 )
・8:30 業務終了

・拘束時間 15時間15分
・実作業時間 2時間10分
・手待ち時間 13時間5分 ( 内仮眠 6時間40分 )
・休憩時間 なし

◯平日 ( 翌日が休日 )
・17:15 業務開始
①17:15~18:05 閉場業務 ( 50分 )
②22:00~22:30 細密巡回 ( 30分 )
・23:00~翌5:40 仮眠可能時間 ( 6時間40分 )
③5:50~ 6:10:外周巡回 ( 20分 )
④7:30~7:40:国旗掲揚 ( 10分 )
・8:30 業務終了

・拘束時間 15時間15分
・実作業時間 1時間50分
・手待ち時間 13時間25分 ( 内仮眠 6時間40分 )
・休憩時間 なし

◯休日 ( 翌日が平日 )
・8:30 業務開始
①14:00~14:20:外周巡回 ( 20分 )
②17:00~17:10:国旗降納 ( 10分 )
③22:00~22:30 細密巡回 ( 30分 )
・23:00~翌5:40 仮眠可能時間 ( 6時間40分 )
④5:50~ 6:10:外周巡回 ( 20分 )
⑤7:30~7:45:開場業務 ( 15分 )
⑥8:15~8:30:正面立哨・引継ぎ ( 15分 )
・8:30 業務終了

・拘束時間 24時間
・実作業時間 1時間50分
・手待ち時間 22時間10分 ( 内仮眠 6時間40分 )
・休憩時間 なし

◯休日 ( 翌日が休日 )
・8:30 業務開始
①14:00~14:20:外周巡回 ( 20分 )
②17:00~17:10:国旗降納 ( 10分 )
③22:00~22:30 細密巡回 ( 30分 )
・23:00~翌5:40 仮眠可能時間 ( 6時間40分 )
④5:50~ 6:10:外周巡回 ( 20分 )
⑤7:30~7:40:国旗掲揚 ( 10分 )
・8:30 業務終了

・拘束時間 24時間
・実作業時間 1時間30分
・手待ち時間 22時間30分 ( 内仮眠 6時間40分 )
・休憩時間 なし

※申請人員:3名
・隔日勤務で金曜が休日:2名
・休日金曜の代替要員:1名

※注意
上での実作業時間は「予め定められた業務の時間」で、
戸籍届受理,来訪者対応,緊急事態対応などの「起こるかどうか分からない業務の時間」は含まれていない。
厳密にはそれらを平均して加えなければならない。
しかし、予め定められた業務の所要時間に「5~10分の余裕を含んでいる」ので「OK」となった。
これらの予測平均時間を「その他◯◯分」として加えてもよいだろう。

また、今回は断続的労働の適用除外許可を先に申請し、
実際に配置する者が決まってから最低賃金の減額許可を申請した。
適用除外許可が下りたときに担当監督官から
「最低賃金の減額許可の場合は起こるかどうか分からない業務について所要時間を詳しくチェックする」と言われたので、最低賃金の減額許可申請の時は実労働時間を増やした ( 後述 )

b.断続的労働の適用除外許可は独立して申請できる

イ.適用除外許可と減額許可は別々のもの

一般に断続的労働の適用除外許可は「最低賃金の減額許可とセット」で申請し審査・許可される。
しかし、この二つの許可はもともと別々のものである。

適用除外許可は「その労働について基準法の時間制限の適用を外してもよい」という許可。
許可の対象は「その業務自体」。
審査し許可するのは基準監督署。

減額許可は「監督署が適用除外許可を与えた業務を行う ( 行っている ) 労働者個人に対し、
業務が適用除外許可内容の通りなので最低賃金を減額してもよい」という許可。
許可の対象は「適用除外許可を与えた業務を実際に行う ( 行っている ) 労働者」。
審査し許可するのは労働局。

本来は、その業務について適用除外許可を与えたあとに労働者にその業務を行わせ、
その労働者に「実際にも適用除外許可の内容通りの業務だったこと」を確認して
「その労働者に対して最低賃金を減額してもよい」との許可を与える。
適用除外許可と減額許可はもともと別々の許可制度なのである。

もし、適用除外許可と減額許可をセットて申請・審査すれば、
「適用除外許可がまだ下りていない業務」を労働者に行わせることになり
「許可システム自体」が労働基準法違反をさせることになる。 →  こちら

実務で「セット申請・審査・許可」になっているのは
「審査が別々になるので事務手続きが煩雑になる」からだろう。

「それはそっちの都合で申請する者には関係ない!」

ロ.「適用除外許可を減額許可より先に得る」利点

その業務について適用除外許可が下りるまでは「労働者をその業務に就かせることはできない」。
そのため「6時間でつなぐ場合,36協定の範囲内で行わせる場合,無許可違法労働の場合」以外は事業主自らが業務に就かなければならない。

その業務に就かせる労働者が決まっている場合は適用除外許可と減額許可をセットで申請すればよい。
しかし、新たに労働者を募集する場合には「先に適用除外許可を得ていれば」採用後すぐにその業務を行わせることができる。
( 減額許可を得ていないので最低賃金の減額できないがその業務を行わせることはできる。 )

セット申請なら労働者採用後、「適用除外許可 ( と減額許可 ) が下りるまで」その業務を行わせることはできない。
それは、事業主に不要な負担をかけるだけでなくその労働者の労働の機会を奪うことにもなってしまう。

ハ.津労働基準監督署の対応

今まで津労働基準監督署と三重労働局で
総合支所等警備業務2件について断続的労働の適用除外許可と最低賃金の減額許可を得ている。
いずれも、新たに労働者を採用してからセット申請をした。
今回は「採用後すぐに業務を行わせたいので」適用除外許可だけを先に申請した。

その際の「津労働基準監督署の対応」を書いておこう。
他の監督署でも同様だろうから参考にしてほしい。

●登場人物
・茶帯君 ( 入ったばかりで監督官としてまだ一人前でない職員 )
・黒帯君 ( 一人前の監督官として立入調査や許可審査を行う職員 )
・指導員 ( 黒帯君たちを直接監督する職員 )
・師範代 ( 監督署ナンバー2 )
・師範 ( 監督署トップ )
※実際の権限や役職は不明。勝手にランク付け。

●茶帯君登場
監督署へ入って『断続的労働の適用除外許可の申請に来ました』と告げると登場。

私『断続的労働の適用除外許可申請は最低賃金の減額許可とは別にできますか?
まだ業務に就かせる労働者が決まっていないのですが。』

茶帯君『できますよ。』

私『それではこちらが申請書です。お願いします。』

●茶帯君は指導員のところへ
茶帯君は指導員の元へ申請書を持っていく。
いろいろ説明を受けて戻ってきた。

茶帯君『適用除外許可は減額許可とセットで申請してください。』

今「できる」と言ったじゃない!

私『なぜ、セットで申請しなければならないのですか?
配置する労働者をこれから募集するので、まず適用除外許可だけ先に申請したいのです。
採用後、すぐにその業務を行わせたいのです。
そもそも、その業務について適用除外許可が下りていなければ
「断続的労働の適用除外業務」として募集できないじゃないですか!
賃金も計算できませんよ!』

茶帯君『実際に労働者がその業務を行っていないのだから、業務に実態がありませんから…。』

私『この業務は5月1日から本日の朝まで私が行っています。これでは業務実態に不足なのですか?』

茶帯君『しかし、実際に労働者が勤務していないので審査することができないから…。』

私『適用除外許可がないのに労働者を配置すれば基準法違反になるのでしょう?
許可審査をするためには労働者の勤務実態が必要だとしたら、
許可審査をするためには基準法違反をしなければなりませんよ。』

茶帯君「…、…。』

●指導員がやってくる
苦労している茶帯君を見かねて指導員がやって来る。
説明するのは「適用除外許可と減額許可がセットで申請し審査・許可される」というやり方だけ。

私『一般にセットで申請・審査・許可されていことは知っています。
以前に同様の業務についてこちらで2件申請しましたがセットで行っています。
しかし、「こちらで実際に行われていること」と「申請者がそうしなければならないこと」は別です。
「申請者がそうしなければならない理由」を示してください。

法的根拠でなくてもかまいません。
厚労省の通達でも解釈でも監督署の手続き実施要領でも何でもかまいません。
「津労働基準監督署がセット申請させている」のにはそれなりの根拠があるはずです。
それを示してください。』

指導員は書庫の前に座る師範代と師範のもとへ。
三人が頭を突き合わせていろいろ話をしている。

●まだいた茶帯君
茶帯君『「適用除外許可が先に出ないと勤務実態を作るのに違法労働をさせなければならない」の件ですが、36協定の特別条項を知っていますか?
これを使えば適用除外許可がなくても違法労働になりませんよ!』

茶帯君の言っている特別条項とは
・36協定の時間外労働の上限は原則として「⽉45時間・年360時間」。
・但し、 臨時的な特別の事情があり労使が合意する場合 ( 特別条項をつけた場合 ) は
「時間外労働 :年720時間以内」
「時間外労働+休日労働:月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内」 →  こちら

茶帯君は「特別条項付きの36協定を結べば月に100時間まで時間外労働をさせられる。
これを使えば適用除外許可がなくても違法労働にならない。」と言っているのだ。

あんたネェ、
「16勤務なら超過勤務は8時間」だから月に100時間で100÷8≒12回。
隔日勤務で月2日の休日なら月12回だから特別条項の100時間で賄える。

しかし、「24勤務での超過勤務は16時間」。
月に100時間なら100÷16≒6回分。
隔日勤務で月12回出勤。
あとの6回分はどうするの?
24勤務の場合はどうするの?
アンタ「宿直業務の態様」を知っているの?

そもそも、適用除外許可を先に出せば36協定も特別条項も必要ない。
今問題になっているのは「なぜ適用除外許可を先に出せないか」で「違法労働を回避する方法」ではない。

茶帯君があまりしつこいので
それでもいろいろ「論じる」茶帯君。
「たかが警備員。旗振りの親方」と甘く見ているのだろうか?

あまりにしつこいので、
私は自分の名刺を茶帯君の前に差し出しこう言った。

私『あなたが言いたいことは分かりました。
それでは、そのことを当方のHPで全国の警備業者に紹介します。
私の名刺はそちらですのであなたの名刺をください。』

茶帯君『HPで私のことを書くのですか!』

私『実名は出しません。津労働基準監督署の係員の対応として書くだけです。』

茶帯君は自分の名刺を机に置き。
私の名刺を残したまま自分の席に戻ってしまった。
その後、彼が私の前に来ることはなかった。

●指導員再び
師範,師範代,指導員の協議がまとまったようだ。
指導員が戻ってきた。

指導員『「適用除外許可と減額許可をセット申請しなければならないという根拠」はありませんでした。
適用除外許可の申請を単独で受け付けます。』

自分たちの都合で何の根拠もないことをさせていたのだ。
これは大問題じゃないの? → こちら

c.添付資料と実地調査

・5月9日申請
・5月16日実地調査

「実地調査には監督官2名が赴く」との連絡。
「そうか、茶帯君を連れてきて勉強させるのか」と思っていたら、
当日は「バリバリの黒帯君2名」がやって来た。

適用除外許可単独申請の件でいじめられた仕返しに「ボロを探してこい」と命じられたのか、
「何かミスや失言があると問題にされるから」と「証人になる1名」を同行させたのか。
いずれにせよこちらは大歓迎。
徹底的に調査してもらった方が「津市発注の宿直業務に含まれる違法労働を洗い出せる」から。

◯申請時に添付した資料
・当方が作成し支所に提出した業務マニュアル
・巡回経路図
・雇用条件通知書 ( 労働契約書 )
・勤務予定表

◯実地調査時に提出を請求された資料
・仕様書 ( 前年度の戸籍届受理・道路障害情報・緊急対応などの実績件数資料 として )
・苦情処理票のコピー ( 苦情処理の件数と所要時間の資料 )
・業務開始から申請までに支所に提出した日報のコピー ( 業務内容の確認 ) 。

◯実地調査
・各業務の実地検証:何をどこまでやるのか,所要時間

◯聴き取り調査、
・起こるかどうか分からない実労働の内容,実際に起こった回数,所要時間。
・コミュニティバス運転手からの料金箱受け取り,受け渡しに代金や回数券のチェックをするのかどうか。 ( 労働内容に料金徴収が含まれると精神的負担が大きくなる )
・道路障害情報対応に地図を調べて地図を添付するかどうか。 ( 地図を調べることが精神的負担になる )

とにかく「根掘り葉掘り」。
タップリと3時間。

やはり「二人で行ってボロを探して来い。不許可にしてやる!」だったのだろうか?
もっとも、不許可なら万々歳。

こちらは行政訴訟で不許可を争うから。
その過程で「津市委託の宿直業務が適用除外許可の下りないものであった」と明らかになるから。
津市の委託してきた総合支所宿直業務が違法労働として社会的に問題になるから。

残念ながらこの期待は外れ、5月22日に適用除外許可が下りた。
申請から許可まで13日。

後述するが「申請から実地調査日の連絡までが最大15日」。
実地調査日の調整や実地調査後の審査期間は含まれない。
今回は申請から実地調査日の連絡まで1週間。
早い方だろう。



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