間違いだらけの「警備員の宿直業務」

最低賃金の減額許可はこのようにして取得する。



1.断続的労働の適用除外許の基礎知識
2.断続的労働の適用除外許可の申請から許可まで
3.最低賃金の減額許可の申請から許可まで
4.断続的労働の適用除外許可の範囲を超えた違法労働業務①
5.断続的労働の適用所が許可の範囲を超えた違法労働業務②
6.「警備員はフリーパスの小間使い」の意識改革から
7.津市発注の警備員宿直業務のこれから

3.最低賃金の減額許可の申請から許可まで

a.最低賃金の減額許可とは

正しくは「最低賃金の減額の特例許可」。
黒帯君たちは「減額特例」と言っている。
本稿では適宜「減額特例」と記述する。

断続的労働の適用除外許可は
「その許可があれば基準法の労働時間制限に反しても基準法違反にならない」というだけで、
賃金は通常の最低賃金で計算して支払わなければならない。

これに対し、最低賃金の減額許可は
「その業務については最低賃金をこれだけ減額してもよい」というもの。
事業者にとっては「賃金を押さえられる」のでありがたい許可となる。

最低賃金法7条 (最低賃金の減額の特例)
「使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、
次に掲げる労働者については、
当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して
厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法24条1項の認定を受けて行われる職業訓練のうち
職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて
厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者

最低賃金法施行規則3条 ( 最低賃金の減額の特例 )
法7条3号の厚生労働省令で定める者は、…略…
法7条4号の厚生労働省令で定める者は、軽易な業務に従事する者及び断続的労働に従事する者とする
ただし、軽易な業務に従事する者についての同条の許可は、
当該労働者の従事する業務が当該最低賃金の適用を受ける他の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な場合に限り、行うことができるものとする。

適用除外許可に該当する監視業務については「軽易な業務に従事する者」に該る。
5 その他
身体又は精神的緊張の少ない監視業務に関する最低賃金減額特例申請は、「軽易な業務
に従事する者」(最低賃金法第7条第4号)に基づき申請してください。
こちら

●最低賃金の減額許可の実務マニュアル

最低賃金の減額許可については実務マニュアルがある。
許可業務を行う監督官はこのマニュアルに従って実務を行う。
許可制度の趣旨から始まり「申請の受け付け,実地調査,審査,許可書の作成」まで細かく書かれている。
ヒマな方は一読されたい。→  こちらこちら
そして、監督官の実務がこのマニュアルから外れたら文句を言おう。

c.今回の許可申請の状況

・6月16日1名採用。
・6月19日,20日,21日警備員新任教育
・6月23日・24勤務 ( 8:30~23:00指導 )
・6月26日・16勤務

・6月25日・許可申請
・電話にて労働者への聴き取り。
・7月10日・許可

申請から許可まで15日。

実務マニュアルP11には「標準処理期間」について記載されている。
これによると「申請受理~実地調査日連絡までが15日以内」。
実地調査日連絡~実地調査日前日の日数は含まない。
書類不備,追加資料提出など申請者の責めにより必要になった日数は含まない。

こう考えると申請~許可が15日は早いと言える。
これは断続的労働の適用除外許可で実地調査が終了しているからである。

少しでも早く減額許可を得て人件費を抑えたい事業者は
やはり「先に適用除外許可を申請した方がよい」だろう。

イ.申請内容

適用除外許可からの変更点

・断続的労働の適用除外許可申請での実労働に「その他30分」を追加。

※参考

次のように起こりうる回数を前年度実績とし実際に係る時間を乗じて一日の平均を求めた。

①戸籍届受理
・届出書の内容をチェックして受理する。
・戸籍関係に変動が生じる場合は「定められた3か所に戸籍関係書類発行停止連絡」。
・死亡届では火葬許可書の発行と火葬場への連絡も。

・死亡届受理所要時間60~90分
・出生,婚姻,離婚届など受理所要時間 10~20分
・令和5年度実績:死亡届22件,それ以外なし。

・1日平均所要時間: 90分×22件÷365日=5.4246…分≒6分

②道路障害情報処理
・動物死骸,倒木,土砂崩れなどの情報電話に対し、場所を特定して管轄部署に連絡。
・#9910からの道路障害情報も同じ。
・当支所の管轄である場合は担当者に電話連絡。それ以外は管轄官庁へ電話連絡。
・所要時間 10~15分
・令和5年度実績45件

・1日平均所要時間:15分×45件÷365日=1.849…分≒2分

③水道障害情報・火災発生情報対応
・水道障害・火災連絡 ( 自動電話 ) のあったことを担当者にそのまま連絡。
・所要時間5分
・令和5年度実績:水道101件,火災11件

・1日平均所要時間:5分×112件÷365日=1.5342…分≒2分

④日報作成 5分

⑤予備時間 15分
・不測の事態に対応する時間。

●申請実労働時間
翌日が平日か休日かで異なるため「多い方を実労働時間とした」。
・平日:翌日も平日 / 160分,翌日が休日 / 140分 →  160分
・休日:翌日が平日 / 140分,翌日も休日 / 120分 →  140分

●その労働者の勤務予定から減額率を算出
今回採用した者については「隔日勤務で金曜・土曜休み」とした。
勤務は
「月,水,,日,火,木,,月,水,,日,火,木,…」で、が休みとなる。

勤務に平日と休日が混ざるので、所定労働時間,実労働時間,手待ち時間が異なる。
このような場合に労働局は「一定期間を平均して所定労働時間と実労働時間を算出して減額率を定める」 →  こちら

今回は「残り契約期間の勤務予定表」の提出を求められた。
減額許可は最長で3年間。
3年間の申請をするときは「3年分の勤務予定表を提出」とか。

この取り扱いは「トンチンカン」。
一人の労働者について平日の減額率と休日の減額率の二つがあっても問題ないはず。
また、労働者によって平日勤務と休日勤務の日数が異なると平均減額率が異なり平日日当や休日日当が労働者により異なることになる。
これは「同一労働同一賃金」に反する。

「一定期間の平均を取る」というやり方は法律で定められたものでも政令で定められたものでもない。
単なる厚生労働省の「やり方」に過ぎない。 ( 実務マニュアルP36 )
こんなトンチンカンなやり方は「さっさと変えればよい」のだが…。

●減額率計算
契約期間の2025年4月30日までの勤務予定を作成。
平日日数と休日日数を求め、1日当たりの所定労働時間数,実労働時間数,手待ち時間数の平均値を算出。
・平均所定労働時間数:1065分 / 日
・平均実労働時間数:155分 / 日
・平均手待ち時間数:910分 / 日

・平均減額率= ( 910×0.4 ) ÷1065×100≒34.17%
・平均減額最低賃金=973円× ( 1-0.341 ) ≒642円

・平日日当=642円× ( 15.25+7×0.25 ) ≒11000円
・休日日当=642円× ( 24+7×0.25 ) ≒16550円

これで申請。

ロ.『適用除外許可の3名を採用してから申請してください。』

監督署に減額許可の申請に行く。
対応したのは「実地調査を行った黒帯君」。

彼は申請書を見てこう言った。
『1人採用しただけですか、適用除外許可は3名でしたから3名採用してから申請してください。』

私『3名採用するまでこの1名の賃金はどうなるのですか?』

黒帯君『減額しない最低賃金を支払えばいいじゃありませんか!』

「開いた口がふさがらない」とはこのこと。
何のための最低賃金の減額許可制度なのか!

もちろん、実務マニュアルにそのような記述はない。
「まずは一人、もう一人雇ったらまた一人」と別々にやっていたら手間がかかるからだろう。

何という怠慢。
これが津労働監督署のやり方なのだろうか?

彼は自分が何をしようとしているのか分かっているのだろうか?
公務員職権乱用罪と言う犯罪を知らないのだろうか?
刑法193条(公務員職権濫用)
「公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、
二年以下の懲役又は禁錮に処する。」


役人風を吹かせたいのなら「よく相手を見ないと」だめだろう。
私が「はいそうですか」と申請書を引っ込め、
会話を録音したテープを持って津警察署に被害届を出したらどうなるのか分かっているのだろうか?
懲役2年の実刑はないだろうが「パワハラ」は完全成立。
津労働基準監督署にはマスコミの列。
異動だけで退職は免れたとしても、SNS上で一生ついて回る「パワハラ監督官」

私が怪訝な表情をしていると黒帯君
『今回は1名で許可申請を受け付けます』。

当たり前じゃ!

ハ.許可内容

申請書記載の通り許可された。

・所定労働時間数:17時間50分
・実作業時間数:2時間35分
・手待ち時間数:15時間15分
・減額最低賃金:642円
・減額率:34.1% ( 34.17%の小数点第二位切り捨て )
・許可の有効期間:令和6年7月10日から令和7年4月30日

二.素朴な疑問

私『本人の希望で勤務形態が変ったら、また一年分の勤務予定表を作って申請し直しですか?』

黒帯君『そんな必要はありません。』

私『しかし、日曜が増えたり減ったりすれば所定労働時間数,実労働時間数の平均が違ってきますよ。』

黒帯君『まあ、労働者の有利になるように賃金を払ってもらえば申請をし直さなくてもいいですよ。』

私『では、賃金が不利になる場合はまた新しく申請ですね。』 ( また、仕事が増えるぞぉ~ッ )

繰り返しになるが、
平日16勤務の減額率と休日24勤務の減額率を二つ許可しておけばこんな問題は生じない。
減額率を一つにしようとするから問題が出てくるのである。

断続的労働の現場を知らない公務員君たち。
「有休の “ゆ“ を口にしたらクビにしろ!」という労働現場を経験するとよいだろう。



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