間違いだらけの「警備員の宿直業務」

戸籍届受理」や「道路障害情報対応」は宿直業務では違法労働



1.断続的労働の適用除外許の基礎知識
2.断続的労働の適用除外許可の申請から許可まで
3.最低賃金の減額許可の申請から許可まで
4.断続的労働の適用除外許可の範囲を超えた違法労働業務①
5.断続的労働の適用所が許可の範囲を超えた違法労働業務②
6.「警備員はフリーパスの小間使い」の意識改革から
7.津市発注の警備員宿直業務のこれから

警備員,警備会社,支所職員,市役所契約担当,市長,市会議員の皆様、
断続的労働の適用除外許可と最低賃金の減額許可について理解していただけただろうか。
それでは本論の「間違いだらけの宿直業務」について説明を始めよう。

仕様書に定められた業務、実際に現場で要求される業務の中に
適用除外許可の範囲を超えて違法労働になるものが含まれている。
そのため、津市や現場の支所担当は「違法労働を要求し行わせている」ことになる。
これが津市公契約条例に反するのは当然のことだが、
労働基準法違反の間接正犯や共謀共同正犯、そして公務員職権乱用罪も問題になる。

『今までずっとこれでやってきたのだから問題ないだろう。』
『全国の市町村のどこでも同じだから問題ないだろう。』
前例踏襲、旧態依然、税金は自分のものだとの思い違い。
これはまさしく「犯罪そのもの」。
そろそろ「正気に戻ってほしい」ものだ。

問題点を説明する前に今までの復習をしておこう。

●津市発注の総合支所宿直業務は「断続的労働の適用除外許可の得られる業務」である。
●断続的労働では「実労働」と「何もしていない状態 ( 手待ち時間 )」 が
繰り返される
●手待ち時間では「何をしていてもよい」。座って入口を見ている必要はない。
●適用除外許可があれば「基準法の労働時間制限」が適用されない。
●適用除外許可で認められる実労働は「精神的緊張・肉体的負担が少ないもの」に限る。
●適用除外許可で認められない業務や 許可内容 と異なる業務をさせると違法労働になる。
●16時間勤務・24時間勤務で「夜間に連続して4時間以上の睡眠を与えない」と違法労働。
●業務の追加・変更で、労働者が不利になる場合は適用除外許可,減額許可とも取り直し。

4.適用除外許可の範囲を超えた違法労働①「精神的負担の大きい業務」

適用除外許可で認められる実労働は「精神的緊張・肉体的負担が少ないもの」に限られる。
厚生労働省 は監視業務につき「精神的緊張・肉体的負担の大きい業務として」次のものを上げて「許可しない」としている。 →  こちら
立哨により行う場合
・必要により身体検査,所持品検査を行う場合
料金徴収車両誘導を伴う駐車場監視業務,
ずっとテレビモニターを見ている場合
・異状事態発生時の対応に高度な技術や判断が必要な場合

適用除外許可でもこれと同等の「精神的緊張・肉体的負担のあるもの」は許可されないことになる。
そして、そのような業務をさせれば許可範囲を超えて違法労働となる。

問題となるのは「戸籍届受理」と「道路障害通報対応」。
それを説明していこう。

a.精神的負担の大きい業務その1「戸籍届受理業務」

イ.戸籍届受理業務とは

全国どの市町村でも「戸籍届は365日・24時間いつでも、どの役場でもOK」。
平日の執務時間外は警備員がこれを行っている。

●届け受理によって身分関係が発生する。

戸籍届「受理」とは郵便物のように「戸籍届を受け取ること」ではない。
「届けに間違いがないかどうかを点検し、不備な点を訂正させ、届出の効力を発生させること」である。

婚姻届,離婚届,養子縁組届などは警備員が届出を受け取ったときに効力が発生する。 ( 創設的届出 )
警備員が見落とした不備があってもそれを後から訂正し「警備員が受け取った時に遡って」効力が発生する。
つまり、婚姻,離婚,養子縁組は警備員がその届を受け取った時に成立しその身分関係が発生する。

受理する届けは全ての戸籍届
通常、警備員が受理する戸籍届は死亡届,出生届,婚姻届,離婚届くらいまで。
( 私は1年間の業務でこの4種類を受理した。 )

しかし、受理しなければならないのは「すべての戸籍届」。
認知,養子離縁,親権及び未成年者の後見,失踪,生存配偶者の復氏,姻族関係の終了,入籍,分籍,国籍の喪失,氏名の変更,転籍,就籍,離婚の際に称していた氏を称する届け等々。

役場が警備員のために用意したマニュアルは死亡,出生,婚姻,離婚まで。
しかも、詳しく説明されているのは死亡届くらい。
当方は警備員のために養子縁組届けマニュアルを書いたが、書いた本人でも「???」
養子縁組届基礎知識養子縁組届演習
これを警備員がやらなければならないのだ。

火葬許可書の発行
次項に詳しく述べるが、死亡届受理には「埋葬・火葬許可書発行」業務が付加される。
許可書記載を間違えば埋葬・火葬ができなくなる。
間違って許可書を発行してしまえば「犯罪に加担する」ことにもなる。

以上のように戸籍届受理業務は精神的負担の大きい業務である。
厚生労働省が「精神的負担の大きい業務」として挙げている「所持品検査,料金徴収」と比べればそれが容易に理解できるだろう。

断続的労働の適用除外許可の実地調査のときに以上を説明すれば絶対に許可は下りない。
しかし、実地調査に来た監督官は「戸籍届受理」について何も質問しなかった。
「戸籍届受理を郵便物のように受け取るだけ」と考えていたのか、
「精神的負担の大きい業務であることを知りながら」知らないふりをしたのか。
どちらにせよ、全国の読者の意見と「厚生労働省の今後」に任せよう。

ロ.実際の届出受理業務と精神的負担の大きさ

◯死亡届受理業務

死亡届受理業務の内容を説明しよう。
「いかに精神的負担が大きい」かが理解できるだろう。

●死亡診断書のチェック
・医師の署名はあるか不審な点はないか?
・医師の署名の代用に「記名+朱肉印」があるか?
・死亡診断書が原本であるか ( コピーではないか ) ?
・死亡日時,死亡したところ,死因,発病・受傷から死亡までの期間などに不審な点はないか?

死亡届のチェック
・死亡届提出期間内のものであるか?
・死亡した人の「氏名,生年月日,死亡したとき,死亡したところ」は死亡診断書通りか?
・死亡した人の住所と世帯主、本籍と筆頭者に間違いや不審な点はないか?
・届出人は「配偶者,6親等内の血族,3親等内の姻族」か?
・届出人の署名 ( or記名・押印 ) に不審な点はないか?
・記名・押印の場合に捨印はあるか?
・届出人の電話番号が記載されているか?

埋火葬許可申請書のチェック
・死亡者の本籍,住所,生年月日,死亡したとき,死亡したところは死亡届通りか?
・死亡診断書の死因は「一類感染症」ではないか?
・申請者は死亡届の届出人と同一か?
・「申請者と死亡届の届出人の同一性」に法的根拠がないから「同一にするようお願いする」。
・複写式申請書の2枚目を補完して埋火葬許可書として交付する。
・この許可書に不備があれば埋火葬ができない。
・この許可書があれば死体を埋火葬することができる。

新聞掲載
・お悔やみの新聞掲載をするかしないかの確認。
・する場合もしない場合も確認書面作成。
・名義は死亡届届出人。

案内
・死亡届や死亡診断書は保険請求手続きで必要になる場合があるので写真orコピーしたかどうか。
・死亡後の行政手続きをすることの案内。

死亡届に受理日時を記載

埋火葬申請書を葬儀場に FAX、 FAXが届いたかどうかの確認電話。

戸籍・住民票等発行停止連絡
住所or本籍が当市の場合は戸籍管理センターへ発行停止連絡を作成し FAX。

一連の作業は馴れた者なら45分~50分。馴れない者なら1時間半はかかる。
当方は「警備員が教えて届出人に死亡届と埋火葬許可申請書を書いてもらう」が、
代筆する警備員もある。
この場合は「精神的負担がもっと大きくなる」だろう。

◯出生届,婚姻届,離婚届受理業務

●出生届
・出生証明書に不審な点はないか?
・証明者の記名 はあるか?
( 出生証明書は「記名だけ,記名と押印,署名だけ」のどれでもOK )。
・届出期間内であるか?
・嫡出子か嫡出でない子かの判断。
・生まれた子の住民登録をするところ ( 親と同じでなくてもよい ) ,その世帯主との関係。
・生まれた子の本籍。嫡出でない場合は「母親と新しい戸籍を作る場合あり」。
・届出人は誰か?
・戸籍・住民票等発行停止連絡

●婚姻届
・夫になる者,妻になる者 ( 届出人 ) の氏名は旧姓か?
・住所地は実際に住民登録をしているところか?
・新しく戸籍をつくる場合か、どちらかの戸籍に入る場合か?
( 現在入っている戸籍とその戸籍筆頭者から判断 )
・証人2名は18歳以上の者か、別々の署名があるか、不審な点はないか?
・各種案内
・戸籍・住民票等発行停止連絡

●離婚届
・夫と妻の氏名は婚姻中の姓になっているか?
・現在の住所は住民登録をしているところか?
・元の戸籍に戻る場合か,戻れない場合か,新しい戸籍を作る場合か?
・離婚の種別。協議離婚以外は書類の添付があるか?
・「離婚の際に称していた氏を称する届け」を同時に出した者の本籍地欄記載方法。
・未成年の子がいるかどうかの確認,親権を行う者の記載,面会交流・養育費負担のチェック。
・「離婚の際に称していた氏を称する届け」のチェックと3か月以内に提出できることの案内。
・戸籍・住民票等発行停止連絡

ハ.執務時間外の戸籍届を警備員が受理する必要性

◯執務時間外の戸籍届を受理する必要性

なぜ、戸籍届受理を「24時間・365日」行わなければならないのか?

『戸籍届には届出期間があり、それを過ぎると罰則が適用されるから…。』

婚姻,協議離婚,養子縁組,養子離縁,入籍などには届出期間はない。
届出をしたときにその効力が発生するからだ。

これに対し、出生,死亡,裁判離婚,離婚の際に称していた氏を称する届けなどには届出期間がある。
そして、その届出期間内に届出ないと罰則が適用される ( 5万円以下の過料・戸籍法137条 )

「罰則付きで届出期間を定めている以上、いつでも受理しないと国民に不利益を与える」というのだろう。

しかし、罰則が適用されるのは「正当な理由なく届出期間内に届出なかった場合」。
「正当な理由」に「届出最終日が休日で受理業務をやっていなかった」を含めてもよいだろう。
そのような取り扱いをしている市町村もある。

さらに、
市町村は届出期間を過ぎた届出も受理しなければならない。 ( 戸籍法46条 )
市町村長は届出期間を過ぎた届出がある場合は届出をするよう催告できる。 ( 戸籍法44条 )
つまり、届出期間内に届出がなくても戸籍上支障が生じることはない。

そもそも過料は科料と違い刑事罰でなく行政罰なので市町村長の判断でなんとでもなるだろう。

『それでも、罰則がある以上「いつでも受理」しないと…。』

なるほど、「徹底して住民の利益を守ろうとしている」のだ。
「住民様へのサービス徹底」なのだ。

◯それを宿直警備員がする必要性

しかし、それをなぜ「宿直警備員がしなければならない」のだろう?

『だって、宿直警備員は休日は24時間,平日は夜間も居るから
警備員にやらせればコストがかかりませんよ!』


要は「住民様へのサービス徹底」を安上がりな警備員に押し付けているだけなのだ。

しかし、それが違法労働になることを知らなければならない。
「戸籍届受理が精神的負担の大きい業務であり断続的労働の適用除外許可の範囲を超えて違法労働になること」を理解しなければならない。
仕様書の業務内容に戸籍届受理を含めていることが「違法労働をさせていること」に気付かなければならない。
それとも「気付いていて気付いていないフリ」?

『そんな堅苦しいことを言わなくてもいいじゃないですか!
警備員の戸籍届受理は全国どこの市町村でもやっていることだし、
何よりもコスト削減で税金の有効利用ですよ!』


その「全国的にやっていること」が大問題なのである。
「税金の有効利用」?
納税者は「税金を使って違法労働をさせること」まで信託していないはずである。

住民の利益を徹底的に護るために「24時間・365日、いつでも戸籍届を受理します」と言うのなら「そういう係」を置くべきだろう。
宿直警備員に違法労働を押し付けて「メデタシめでたし」はないだろう。

戸籍届受理業務は宿直警備員の業務から外さなければならない。
もし、宿直警備員の業務に含めるのなら「単に受け取るだけ」。
後日、職員が届出書をチェックして間違いがあれば訂正し、警備員が受け取った時に効力発生。
これが現在の主流となっている。
大阪府北区吹田市大田区四日市市,「戸籍届お預かり」で検索してゾロソロ。

ただし、埋火葬許可書は「警備員が許可申請書お預かり」では対処できない。
早急に埋火葬するために許可書発行が必要となる。

「戸籍届お預かり」を採用している市町村でも埋火葬許可書を警備員に発行させている。
しかし、埋火葬許可書は事件発生に関係するので、
警備員が発行するには荷が重すぎるし精神的負担が大きすぎる。
精神的負担の大きい死亡届受理を警備員の宿直業務から外して、もっと精神的負担の大きい埋火葬許可書発行を警備員の宿直業務から外さないのは矛盾となる。

埋火葬許可書については「埋火葬許可書発行は執務時間内に限る」とするか「いつでも発行しますという係を作る」かのどちらかとなる。

b.精神的負担の大きい業務その2「道路障害情報対応」

戸籍届受理と並んで精神的負担の大きい業務として「道路障害情報対応」というものがある。
「家の前に狸が死んでいるから片付けて欲しい」とか
「道路に木が倒れているから通れるようにして欲しい」という住民からの電話への対応である。

これも「ただ受け取るだけ,そのまま取り次ぐだけ」ではない。
警備員の適切な判断と対処が必要で「精神的負担の大きい業務」となる。

イ.何をするのか?

①場所の判断
◯私有地内か道路上か?
・私有地内であれば私有地の管理者が対応。
・津市では管轄支所が有料で処分することになっているのでその案内。
◯河川,水路,鉄道敷地内ではないか?
・河川,水路,鉄道敷地内の場合はそこを管轄する者に連絡。
◯国道か県道か市道か?
・国道・県道を管轄する県建設事務所に連絡。
・市道でも支所管轄ではなく本庁管轄の場合は本庁に連絡。

②「交通障害になっているかどうか」の判断
執務時間外で支所担当が対応するのは「交通障害になっている場合」だけ。
それ以外は「平日の執務時間内」の対応となる。
警備員は担当に連絡する前に「交通障害になっているかどうか」を判断しなければならない。

ロ.警備員の精神的負担

私は戸籍届受理よりこちらの方が「嫌」である。
戸籍届受理は「決められた項目についてチェックして適否を判断すればよい」。
しかし、道路障害情報対応は「警備員が判断しなければならない部分」が大きい。

場所の判断
情報者が正確な場所を伝えていない場合もある。
地元の者で旧名で場所を伝える場合もある。
土地勘のない警備員もいる。
PCで Yahoo 地図やGoogleマップを利用できなければゼンリン住宅地図で調べなければならない。

管轄者の判断
場所を特定したら管轄者を特定しなければならない。
「その場所をクリックしたら管轄者が分かるようなソフト」があれば簡単だが、
それを警備員が判断しなければならない。

「交通障害になっているかどうか」の判断
倒木が道路を塞いでいる場合は問題ないが、
「障害物をよければ通行できる」or「片側通行で通行できる」場合は難しい判断になる。
今の状態で通行できてもさらに状態が悪化して交通事故が発生したらその責任を問われてしまう。

前任警備員の体験談 ( 真偽未確認 )

深夜に「市道の真ん中に大きな猪の死体がある」との電話。
市道であることを確認し「交通障害になっている」と判断して担当に連絡。
担当は『そんなことで真夜中に電話してくるな!』と警備員を叱った。
しかし、その担当は気になって現場に向かった。
現場に猪の死骸はなかった。

猪がまだ生きていたのか?
情報者の見間違いだったのか?
いたずら電話だったのか?

結果責任を取らなければならないのは「その電話を受けて判断した警備員」になる。

なお、交通障害になっている動物が生きている場合は支所では対応しない。
猟友会の対応になる。
その判断も警備員がしなければならない。

深夜に「熊の目撃情報」があったらどうするのか?

電話を受けて処理する警備員の精神的負担は戸籍届受理よりはるかに大きいと言える。

電話を受けたらすぐに「その日の当番」に連絡する。
当番が情報者に連絡し「場所の特定,管轄外なら管轄者への連絡,交通障害の判断」をして対処を決める。
警備員は「ただ電話を取り次ぐだけ」。

このようにしないと、「精神的負担の大きい業務」として断続的労働の適用除外許可の範囲外のものとなり違法労働になってしまう。

なお、当支所には水道事業所が同居している。
この水道事業所への障害情報電話 ( 自動電話,利用者や目撃者からの電話 ) も警備員が対応している。
しかし、こちらは「その日の当番がどんなことでも24時間即応」。
警備員は「電話のあったことと電話内容を伝えるだけ」。
どんな時間でも「快く了解しました」。
「そんなことで夜中に電話してくるな!」と叱る当番はいない。

警備員が判断する場面はなく警備員の精神的負担はまったくない。
「道路障害情報対応」もこのようなものでなければ違法労働となってしまう。



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