間違いだらけの「警備員の宿直業務」

「職員24時間待機で外線電話を全て警備員が取次ぎ」は違法労働



1.断続的労働の適用除外許の基礎知識
2.断続的労働の適用除外許可の申請から許可まで
3.最低賃金の減額許可の申請から許可まで
4.断続的労働の適用除外許可の範囲を超えた違法労働業務①
5.断続的労働の適用所が許可の範囲を超えた違法労働業務②
6.「警備員はフリーパスの小間使い」の意識改革から
7.津市発注の警備員宿直業務のこれから

5.適用除外許可の範囲を超えた違法労働②「夜間の4時間睡眠を害する業務」

適用除外許可の要件に「夜間に連続して4時間以上の睡眠を確保できなければ12時間以上の勤務をさせてはならない」というものがある。 → こちら

そのため「夜間の4時間睡眠を害する業務」は適用除外許可の範囲を超え違法労働となる。

もちろん、宿直業務が「職員不在時の留守番」である以上、突発的な事件・事故の対応は「いつでも」しなければならない。
ここで問題にするのは「突発的な事件事故の対応ではないもの」についてである。

問題となる業務は二つ。
「災害対応で職員が24時間待機している場合の電話の取次ぎ」と
「深夜工事を担当する職員の出入り管理」,「職員の残業」。

これを説明しよう。

a.職員24時間待機の場合の電話取次ぎ

大雨警報や暴風雨警報が出ると職員が交代で24時間待機する。
南海トラフ地震注意報が出たときも対策本部を設置し職員が交代で24時間待機した。
災害発生情報の集約,各機関への情報提供,住民への避難指示などに即時対応するためだ。

この間「外線電話すべてを警備室で取り警備員が該当担当へ転送せよ」との指示。

『それでは待機している職員の対応が遅れるのではないのか?』
『各部署への外線着信をまとめて警備室で取り、警備員がそれを各部署に転送するより、各部署に電話が直接かかった方が早く対応できるのではないのか?』

こう質問すると答えは。
『各部署にすべて職員が待機しているわけではない。
各部署に直接電話がかかると、その部署で電話が取れない場合がある。』


各部署といっても「隣の机の列」。
何人も待機しているのだから、その者が電話を取ればいいだろう。

そもそも、「その部署に職員がいるかいないか」は警備員には判らない。
その部署に職員が待機していてければ警備員が転送してもつながらない。
結局は隣の机の列の待機職員が取ることになる。
なぜ「そんな二度手間」をやらなければならないのだろう?

要するに「自分たちがわずらわしいから」

巡回に出る警備員が待機している管理職に尋ねた。
『今から巡回に出るので警備室を空けます。
巡回の間は警備室への転送を止めて各部署に直接かかるようにしましょうか?』

その管理職はこう言った。
『それではかかってきた電話を誰が取ればいいのか分からない。
警備室で全ての電話を取って各部署に取り次いでほしい。』

この管理職は「この支所の電話の仕組み」が分かっていないのだ。
「各部署には異なった外線電話番号があり、相手のかけた電話番号の部署の電話が鳴る」。
「巡回中に警備室にかかってきた電話は警備員のケイタイ電話に転送されるが「取り次ぐ」ことはできない」。
取り次ぐためには「巡回を途中で止めて、執務室まで伝令に行かなければならない」。

どうも「自分たちを社長さん、警備員を社長秘書」と思っているらしい。

『社長!◯◯サンからお電話です。』
『はいはい、ありがとう。
もしもし、どうもお待たせしました。社長の◯◯です。お元気ですかナ…。』
これをやりたいらしい。

その意識の根底には「警備員は自分たちの小間使い」。
小間使いが居るのになぜご主人様が電話を取らなければならないンだ!
自分を「ご主人様」と考えているのだろう。

そんな「大江戸職員」は現代の労働法を意識しなければならない。

・宿直警備員は「フリーパスの小間使い」ではなく労働基準法の保護を受けている労働者。
・監督署が「断続的労働の適用除外許可の範囲内で働くことを許可した」労働者。
・適用除外許可の範囲を超える業務をさせれば違法労働となる労働者。

そして、断続的労働の適用除外許可の要件の中に
「12時間を超える勤務では夜間に連続して4時間以上の睡眠を確保すること」がある。
「職員24時間待機中の警備員の電話取次ぎ」はこの要件に反することになり、それが違法労働となる。

「地震注意情報,大雨・暴風雨警報での職員24時間待機」では
「その事案にすぐに対応するための職員が待機している」。
「職員不在」の場合の「地震・火災,事件・事故発生時の対応」とは異なる。

そのため、適用除外許可の範囲外の業務として違法労働となってしまうのだ。

また、仕様書をよく読んでもらいたい。
非常事態時の対処の項に「24時間職員待機のときの全電話取次ぎ」は含まれていないし。
「業務にあたっては、労働基準法等の関係法令を遵守し警備員を配置すること」と書かれている。

「職員の24時間待機のときにかかって来た電話を警備員が全て取り次げ」という指示・要求は
「労働基準法に反するもの」であり「契約内容に反するもの」であることをしっかりと認識して欲しい。

そうしないと違法労働を指示・要求したことで自らが労働基準法違反の間接正犯、
契約外業務を指示・要求したことで公務員職権濫用罪になってしまう。
少なくても「パワハラ完全成立」だろう。

その前に「一体アンタたちは何のために待機しているンだ!」

『職員様が24時間待機しているのに小間使いの警備員が仮眠などもっての外。
職員様のために電話取次ぎをするのは当たり前だろう!
警備員ごときが、お上の言うことに異を唱えるとはもってのほか、頭が高~いッ!』


職員様はこんな不満は心の中にしまって置かなければならない。
そうしないと、パワハラだけでなく基準法違反や刑法犯(公務員職権濫用罪)を問題にされてしまう。

なお、「夜間の連続した4時間の睡眠を害さなければ適用除外許可の範囲内で違法労働にならない」と言うことではない。

「連続した4時間の睡眠」は「そうでなければ許可しない」という一般的な許可要件に過ぎない。
個別の許可では「4時間よりはるかに長い睡眠可能時間帯」が申請され、それがその許可の範囲となっている。
厳密に言えば「その仮眠可能時間帯を害すれば」その許可の範囲を超えて違法労働になってしまう。

「4時間の睡眠を害する」ことは「完全にアウトになり違法労働になる」という限界要件である。

b.深夜工事の担当職員の出入り,職員の居残り

当支所には水道事業所が同居している。

水道障害情報電話の内容を伝えると「24時間・いつでも・快く引き受けてくれる」あの部署である。

その水道事業所が深夜に水道工事を行う。
作業が終わった担当が庁舎に出入りする。
3時や4時になるときもあれば朝まで帰って来ないときもある。

作業が終わった担当は仮眠中の警備員を起こして出入口を開けてもらい庁舎に入る。
その後、庁舎内で残った仕事を片付けて、また警備員に告げて出入口を開けてもらって帰宅する。

例えばある日の出入りは「3:05~3:35」
警備員は朝5:30に起きなければならない。
当然、「夜間の4時間以上の睡眠」は害される。

水道障害対応で担当職員が深夜に庁舎に出入りする場合も同じことが起こる。

これらは「地震・火災,事件・事故発生時の対応」ではないので、適用除外許可の制限がかかる。
しかも解決方法は簡単。
水道事業所職員が警備室側出入口の鍵を持ち、出入り管理簿に記帳して出入りすれば済む。

なお、「水道障害発生の自動電話でも同様のことが生じる」のはすでに述べた。 → こちら

この点は「実際の事案を集積し、これから提案していこう」と思っている。
その結果は随時追記する。

平気で1時過ぎまで居残っている職員。

もちろん、机の前で仕事をしている。

しかし、「日付をまたいでまで終わらせなければならない日常業務」があるのだろうか?
次の日ではだめなのだろうか?
「大江戸の書類行政,印鑑行政」で仕事量が個人の能力を超えているのではないだろうか?
「仕事効率を上げる工夫」をしなければ、「税金で賄っている労働資源」の無駄になる。
その意識はあるのだろうか?
※「津市の大江戸印鑑行政」については別稿で説明する。 → こちら

それはともあれ、警備員には「いつまで残留するのか」の事前連絡はなし。
「居残りをすること」自体の連絡もなし。

「職員様が仕事をしているのに、小間使いの警備員は職員様をじっと待っていて当然だ!」
こう思っているのだろうか?

「警備員に連続した4時間の睡眠を与えないと違法労働になること」を知らないようだ。
彼らは「警備員に違法労働を強要していること」になるのだ。
これは公務員職権濫用罪にならなくても「完全にパワハラ成立」となる。

津市は公契約条例で受注者に労働法遵守を求め、契約時にその旨の誓約書を提出させている。
しかし、津市の職員自体が「違法労働を平気で警備員に強要」している。

何たる矛盾!
これは津市契約調達課と支所管理職の怠慢に他ならない。
「職員が断続的労働について知りませんでした」では済まされない。

まさしく津市調達の宿直業務は「無法地帯」なのである。

なお、この問題も水道職員の深夜出入りと同じく
「残留する職員が警備室出入口の鍵を使って退出すれば」簡単に解決できる。
警備員は適用除外許可の最低限の要件である「連続した4時間の睡眠」が確保できるし、
職員は「警備員に違法労働を強要すること」なく思う存分居残りができる。

「津市職員の断続的労働に対する理解」から始めなければならない。
その前に「職員様はご主人様」意識から変えなければならないだろう。

6.「警備員はフリーパスの小間使い」の意識改革から

新規に支所宿直業務を受注すると「そこは大江戸時代」。
警備員は「フリーパスの小間使い」。
『断続的労働?適用除外許可?違法労働?』
「はて?ハテ?」、「そんな許可が必要なの?」

今までの警備業者とと警備員が「要求されるまま」に従ってきたからだろう。
これを変えるには「軽く1年かかる」。

当支所もその途中。
今までの2点を紹介しよう。

a.休日は警備室側出入口無施錠

「職員の出入が楽だし、警備員がずっと見ているから問題ない。」

●休日の昼間は警備室側出入口無施錠で誰でも出入り自由

適用除外許可申請のための業務確定で驚いたのは「警備室側出入口の休日無施錠」。
具体的には平日と同じく「朝の7時30分に開けて、夜の22時に閉める」。

職員は警備室側出入口から自由に出入りし、出入り管理簿に記帳する。
しかし、それでは「誰でも出入り自由」となってしまう。

そこは問題ないらしい。
「警備員がずっと出入口を見ているから」

これでは断続的労働として適用除外許可が得られない。

「警備員が出入り口を見ている」のは実労働。
これでは「7時30分~22 時」がまるまる実労働となってしまう。
「実労働と手待ち時間が交互に繰り返される」という断続的労働ではなくなってしまう。

「出入口をずっと見ていなくてもいいんです。誰かが来たときに見てチェックすればいいんです。
だから、手待ち時間と実労働が繰り返されることになるのです。」

適用除外許可にこんな幼稚な言い訳が通るはずがない。
「誰かが来るかも知れないと注意していること」が実労働に該るのだ。
「手待ち時間」とは「完全に精神が開放されていなければならない」のだ。

そもそも、「誰かが来るかも知れない」と出入口を見ているのは精神的負担が大きい。
短時間の場合でも適用除外許可は与えられないだろう。

「出入口施錠、来訪者がインターホンで警備員に連絡。警備員が出入り口を開ける」のならOK。

これなら、警備員はインターホンで呼ばれるまで出入口に注意を払わなくてもよい。
「インターホンで呼ばれて出入口を開ける」のが実労働、「インターホンで呼ばれるまで」が手待ち時間。

インターホンで呼ばれるまでは「完全に精神が開放されている」。
さらに、「インターホンで呼ばれてから動けばよい」ので「精神的負担も少ない」。

この点を説明しても「休日は無施錠」

以上を説明し、
「休日無施錠だと断続的労働の許可が出ないので施錠・インターホン対応にして欲しい」と要求。

しかし、支所の答えは「あくまで休日無施錠」。

『警備員は出入口に向かって座り、出入口をじっと見ているものだ。
それをしないとは何たる怠慢!

そもそも、警備員ごときがお上に意見するとは「この世の末」!
警備員を甘やかしてはいけないゾ!』

こんな「化石の誰か」が譲らないのかもしれない。

「警備員はアンタたちの小間使いではなくて労働基準法で守られている労働者なんだけど…。」

こんな時代錯誤の公務員に基準法を説いても無理なので、私は次の条件を認めさせた。
・警備員は無施錠の入り口を見ていない。
・誰かが来たのを偶然見かけたときは出入り管理を行う。
・部外者の出入りを警備員が見逃して問題が起こっても警備員は一切責任を負わない。

もっとも、「休日の出入口無施錠・出入り自由」はどの施設でもよく行われている。
これは、「現場の警備員が勝手にそうしている場合」が多い。

職員は自由に出入りできるから楽、
警備員はインターホンで呼ばれて鍵を開けなくてもいいから楽。
「朝に鍵を開けて、夜に鍵を閉めればよい。職員は喜ぶしこちらは楽。」

何のために我々警備員がいるンだ!

監督官に指導させようとしたが

適用除外許可の実地調査に来た監督官にこの話をした。
二人の監督官も私と同じ考え。

私は監督官に頼んだ。
「休日無施錠なら適用除外許可を出せないので休日施錠・インターホン対応にする必要あり」と支所担当に助言してもらいたい。

しかし、「行政は行政に対して関わらない」らしい。
各々の縄張りがあるのだろう。

監督官二人は「それはSPnetさんから支所の方へ」。

それではラチが開かないからアンタたちに頼んでいるンだけど…。

結局「次のことを警備員に徹底する」ことで落ち着いた。
・警備員は出入口を見ている必要はない。
・部外者の出入りを見落として問題が起こっても警備員は一切責任を問われない。
・これをすることを条件に許可を出す。

これを支所担当に話しても「休日無施錠」は変わらなかった。

●やっと変わった「休日施錠・インターホン対応」

適用除外許可が出るときに担当監督官が私に念を押した。

『「出入口を見ている必要はない」とどれだけ言っても、労働者は「やはり見ていた方がよい」と思ってしまう。
そういうことが起こらないようにしっかり指導することを条件に適用除外許可を出します。』

このことを支所担当に伝えた。
しかし、「休日無施錠・出入り自由」は変わらなかった。

それから1か月半後。
やっと「休日全日施錠・インターホン対応」に変った。

誰が見ても間違っていることを正すのにこれだけの労力を使って2か月半もかかるのである。
役場というところは「二本差しと筆と墨とソロバン」の大江戸時代のままなのだ。

『頭が高~いッ!』

b.適用除外許可の出たあとに業務を追加

警備員を「フリーパスの小間使い」だと思っている。

「業務の内容とやり方」は事前に支所担当と協議して決め、それを書面にして支所に提出してある。
適用除外許可は「この業務内容とやり方」で申請し、実地調査を受け、許可が下りている。

許可が下りた後で支所担当が゛
『ここの異状確認は目視としましたが手で触って確認、この建物の施錠確認もしてください。』

許可された業務内容の所要時間は「5分刻み」。
ある程度の余裕がみてあるので「許可の範囲で」できるものもある。
しかし、それ以上の時間がかかったり、巡回コースを外れたりすれば「許可の範囲内でなくなってしまう。」
なんと、追加業務の中には「仕様書の警備区域外にある建物の施錠確認」も入っていた。

そんな業務を追加するには「許可の取り直し」が必要になる。
仕様書の警備区域外の警備なら「契約の変更」が必要になる。

発注者の津市は「宿直警備業務は適用除外許可の得られる断続的労働」としている。
しかし、現場の支所職員は適用除外許可について何も知らない。
「その許可がなければ警備員を6時間以上働かせることができない」ことも、
「どのような業務内容であればその許可が下りる」のかも、
「業務内容を変更すれば許可を取り直さなければならない」ことも知らない。

警備員は「フリーパスの小間使い」だと思っているのだ。

「あれもやらせよう、これもやらせてみたら?。
フリーパスだから使わないとソンだ。」

長年そうやってきたのだろう。
そして、断続的労働の適用除外許可を知らない警備員は「それに黙って従ってきた」のだろう。

私は「適用除外許可取得後に業務内容を重くする変更はできないこと」を説明し、
「余裕時間で賄える業務追加」は追加し、巡回コースを外れる業務は断った。
念のため、最低賃金の減額許可申請では「その他」として実労働時間を増やした。



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