どこか怪しいけど…。
●宿直業務と基準法の労働時間制限
●「手続き不要,審査なし,賃金をどれだけでも安くできる」がリスクの高い方法
●宿直業務には「ちょっとハテナ?」の変形労働時間制
●手続きがややこしいけど「真っ白」な方法
3.宿直業務には「ちょっとハテナ?」の変形労働時間制
次は最近よく見かける「変形労働時間制」。
以前は無許可違法労働がばれると「36協定」で逃げたが、最近では「変形労働時間制」を使うらしい。
質問をしてきた読者の警備会社もこれで逃げようとした。
当方は変形労働時間制をとっていないので「監督署がどこまで口を出してくるか」は分からない。
しかし、制度の趣旨や手続きを見る限り、宿直業務には採用することができないものと思われる。
a.変形労働時間制とは
観光地の旅館やテーマパーク。
土日、祝日は忙しいけど平日はヒマ。
春や秋の行楽シーズンは忙しいけど夏や冬はヒマ。
忙しい土日・祝日にたくさん働いてもらってヒマな平日には休んでもらう。
忙しい行楽シーズンにたくさん働いてもらってオフシーズンには休んでもらう。
忙しいときには「8時間/日,40時間/週」を超えても、
平均したら「8時間/日,40時間/週」になればいいんじゃない?
その方が労働者も給料が減らなくていいでしょう?
これが変形労働時間制。
つまり、「労働時間が平均して8時間/日,40時間/週になれば、労基法の労働時間制限(労基法32条)を外す」というもの。
1ヶ月単位(労基法32条の2),1年単位(労基法32条の4),1週間単位(労基法32条の5)がある。
おのおの認められる要件が異なる。
※こちら,こちら
b.1ヶ月単位の変形労働時間制の要件
ここでは1名配置の警備員の宿直業務求人によく見られる「1ヶ月単位の変形労働時間制」について考える。
労基法の定めは次の通り(労基法32条の2)
使用者は、
①当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との
書面による協定により、
又は就業規則その他これに準ずるものにより、
②1ヶ月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が32条第1項の労働時間(40時間/週)を超えない定めをしたときは、
③32条の規定(労働時間の制限)にかかわらず、
④その定めにより、
特定された週において32条1項の労働時間(40時間/週)
又は特定された日において32条2項の労働時間(8時間/日)を超えて、労働させることができる。
⑤使用者は、この協定を監督署にに届け出なければならない。
以上労基法32条の2,労基法施行規則12条の2の2
その要件は
1.労働者の代表者との書面による協定or就業規則に定めること。(上記①)
2.1ヶ月を平均して40時間/週を超えないこと。(上記②)
3.40時間/週を超える週、8時間/日を超える日を特定すること。(上記④)
4.協定を監督署へ届け出ること。(就業規則はすでに届け出てある)(上記⑤)
その効果は
5.労働時間の制限(労基法32条)を外す。→これに反しても罰しない。
だから、
これを満たさない次の場合は労働時間の制限が外されず使用者は労基法32条違反として処罰されることになる。
・就業規則に書いてない。労使協定がない・監督署に届けてない。
・労働時間が1ヶ月を平均して40時間/週を超える。
・40時間/週を超える週、8時間/日を超える日が特定されていない。
c.宿直業務と変形労働時間制
読者の多くはここまで読んで「?」と思っただろう。
『宿直業務って毎日定期的に仕事があり、
行楽地の旅館や施設のように特定の曜日や週に忙しくなることはない。
そんな、宿直業務に変形労働時間制って適用できるの?』
たしかに、毎日一定時間の仕事がある宿直業務は変形労働時間制の対象にならないような気がする。
しかし、宿直業務は平日は15.5時間(16勤務)で土日・祝日は24時間(24勤務)だから、
土日・祝日に人手が足らなくなる(土日・祝日に忙しくなる)と言える。
また、土日・祝日はイベント警備や保安警備でさらに忙しくなる。
こう考えると土日・祝日に変形労働時間制を採用し8時間以上の勤務をさせることは可能である。
つまり、土日・祝日の24時間勤務をさせても1ヶ月平均が40時間/週ならOKとなる。
しかし、平日の15.5時間(16勤務)をどうやってさせるのだろう。
どのようにして「40時間/週を超える週、8時間/日を超える日を特定する」のだろう。
「就業規則や労使協定にそれっぽい特定をしておけば、監督署はいちいち調べることはしない」からだろうか?
「こうやればいいんだよ」という裏技があるのだろうか?
当方は変形労働時間制を採用していないから「よく分からない」。
しかし、「ちょっとア・ヤ・シ・イ」のは誰でも分かる。
この点は今後の宿題としよう。

この方法で「やれる」みたいだよ!
d.変形労働時間制の手続きと効果
手続きは
・どの日に8時間/日を超えるか、どの週に40時間/週を超えるか特定すること。
・一ヶ月を平均して40時間/週を超えないこと。
・それを就業規則に書くか、書面による労使協定として監督署に届けること。
・断続的労働の適用除外許可のような監督署による実地調査はない。(この点は当方は経験がないので不明)
効果は
・その日に8時間/日を超えても、 その週に40時間/週を超えても違法労働とはならない。
(労基法32条に反しない)
・8時間を超えた分につき残業代は発生しない。
制約は
断続的労働の適用除外許可のような制約はない。
・「巡回回数や巡回時間,勤務と勤務の間の休息時間,休日,精神的負担の大きい業務は不可,夜間に連続した4時間以上の睡眠が取れること」不要。
・仮眠時間を与えなくてもよいから仮眠設備も不要。
・すぐに労働者を配置できる。(「申請から許可までは労働者を配置できない」という制約なし)
賃金は
8時間を超えた分につき「残業代が発生しない」だけ。
これを詳しく説明しよう。
e.変形労働時間制の賃金
・平日17時~翌8時の15.5時間、土日・祝日8時30分~翌8時30分の24時間
・仮眠時間23時~翌6時
・1名配置
・最低賃金=1050円
〇平日日当
・平日の拘束時間は17時~翌8時の15.5時間。
・1名配置に休憩は存在しないから15.5時間全てが労働時間。
・22時~翌5時の7時間は深夜労働で25%割増。
・労働時間8時間を超えた7.5時間に残業割増はつかない。
・平日日当=最低賃金1050円 × (15.5時間+7時間 × 0.25)
=1050円 × 17.25時間=18112.5円≒18113円
〇土日・祝日日当
・土日・祝日の拘束時間は8時30分~翌8時30分の24時間。
・1名配置に休憩は存在しないから24時間全てが労働時間。
・22時~翌5時の7時間は深夜労働で25%割増。
・労働時間8時間を超えた16時間に残業割増はつかない。
・土日・祝日日当=最低賃金1050円 × (24時間+7時間 × 0.25)
=1050円 × 25.75時間=27037.5円≒27038円
上で説明した「無許可違法労働」で請求される適正賃金は
・平日20082円
・土日・祝日31238円
変形労働時間制を採用して安くなる賃金は
・平日=20082円-18113円=1969円
・土日・祝日=31238円-27038円=4200円
変形労働時間制をとっても「少し安くなるだけ」である。
なお、
・「就業規則や労使協定で定めた特定の日、特定の週」以外に労働時間を延長した場合。
・1ヶ月を平均して労働時間が40時間/週を超えるとき。
は使用者は労基法32条違反で罰則が適用され、超えた分については残業代が発生する。
※「残業代が発生する」とだけ説明しているサイトがあるが、基準法違反になることは当然である。
もちろん、「変形労働時間制を採用していることがウソ」であれば、
無許可違法労働の場合と同じ適正賃金が請求できる。
変形労働時間制で採用された宿直警備員は、
就業規則で「変形労働時間制が採用されているのか」、「どの日,どの週に適用されているのか」、「自分の勤務時間の1ヶ月の平均が40時間/週以内か」をチェックしてみる必要がある。
就業規則に書いてなければ労使協定として監督署に届けてあるからその控えを見せてもらおう。
これを渋るようなら「限りなくブラック」。
5年分の適正賃金差額は何百万円!
検察庁にもしっかりと刑事告訴して罪を償わそう。
「ばれないから大丈夫」、「みんなやっているから大丈夫」。
目先の小金を掴もうとすると大けがをする。
そもそも事業はゲームやスポーツと同じ。
ルールがあるから面白い。
ルールを守らないで小金を儲けても面白くないだろう。
同業者から笑われても馬鹿にされても「合法な雇用」。
次に説明する「断続的労働の適用除外許可と最低賃金の減額特例許可」をお勧め。

「法律を守らないとコワイんだけど…。」