間違いだらけの「警備員の宿直業務」

警備員も津市職員も「まずは断続的労働の理解」から。



※本稿から文体を「ですます体」から「である体」に変更。

1年ぶりに津市公共調達で「ある総合支所」の宿直警備業務を受注した。
業務引継ぎでいつも驚くのは「警備員が入口に向かってじっと座っている」こと。

これでは、監督署の「断続的労働の適用除外許可」が下りず違法労働となる。

また、戸籍届受理手続きや交通障害情報対応など「精神的負担の大きい業務」も含まれている。
このような業務を含めば監督署は適用除外許可を与えてはいけないはずである。
しかし、これが津市だけでなく全国的に当たり前になっている。

また、適用除外許可では「16勤務・24勤務で夜間の連続した4時間の睡眠ができること」が必要。
しかし、これを満たせない業務も含まれている。

さらに驚くのは警備員も警備業者も支所職員も「それが当たり前」だと思っていること。
発注者の市役所調達契約課も市長も市会議員も関係者全員が「当たり前だ」と思っていること。
どうも「小間使いをフリーパスで契約している」と勘違いしているようだ。

本稿では次のことを説明する。
・断続的労働とは何か、適用除外許可とは何か。
・断続的労働の適用除外許可はどのように取得するのか。
・最低賃金の減額許可とは何か。どのように取得するのか。
・断続的労働の適用除外許可の範囲外の業務で違法労働になるもの。
・津市発注の警備員宿直業務はこれからどうなっていくのだろうか?

誰も気付いていない。
気付いていても「気付かないふり」。
監督署は「他の行政組織の問題には関知しない」。
身内の汚点は暴かない。
世間は『まあ、不条理は世の常だから…。』

警備業界に基準法は存在しない。
行政絡みの警備業務に監督署は存在しない。
「国連のビジネスと人権に関する指導原則」は掛け声だけ。

誰も助けてくれない。
現場の警備員一人一人が声を上げなければ警備員の違法労働はなくならない。
「年寄りを雇ってくれるだけでありがたい」など思ってはならない。
「これが警備員だから…。」と我慢してはならない。
監督署を直接動かせるのは現場の警備員だけでしかない。

※解釈総覧
・名称:労働基準法解釈総覧
・編者:厚生労働省労働基準局
・発行所:労働調査会
・厚生労働省の「労働基準法条文解釈」。監督署はこれで動いている。
・本稿では「改訂15版」を参照。

1.断続的労働の適用除外許の基礎知識
2.断続的労働の適用除外許可の申請から許可まで
3.最低賃金の減額許可の申請から許可まで
4.断続的労働の適用除外許可の範囲を超えた違法労働業務①
5.断続的労働の適用所が許可の範囲を超えた違法労働業務②
6.「警備員はフリーパスの小間使い」の意識改革から
7.津市発注の警備員宿直業務のこれから

1.断続的労働の適用除外許可の基礎知識

a.断続的労働と適用除外許可

断続的労働とは「実労働 → 手待ち時間 → 実労働 → 手待ち時間」が繰り返される労働態様。

実労働には「予め定められた業務」と「いつ起こるか、起こるかどうか分からない業務」を含む。

前者には定時的な巡回 ( 巡視 ) や閉場・開場業務。
後者には「電話取次ぎ,道路障害情報の担当者への連絡,郵便物受取,緊急事態対応」など様々なものがある。

「手待ち時間」は何をしていてもよい。
読書,テレビ,飲食,横になる,などなど。
ずっと窓口に座っている必要はない。

但し、「いつ起こるか、起こるかどうか分からない業務」に対応できなければならない。
そのため警備室を離れることはできないし睡眠もできない。
( 睡眠は「仮眠可能時間帯」として夜間に一定時間が確保される。 )
また、「警備業務遂行中」のイメージを崩すこともできないので私服に着替えることはできない。
賃金は実労働を100%評価、手待ち時間を60%評価として計算される。

なお、1名配置の場合「休憩」は存在しない。
「いつ起こるか、起こるかどうか分からない業務」に対応しなければならないからだ。
仮眠時間も休憩ではない。

断続的労働では拘束時間は長いが実労働時間が短いので平均すると労働強度が低くなる。
そこで、労働基準法の「労働時間の制限」を外すことができる。(労基法41条)
具体的には「1日8時間労働」,「1週40時間労働」,「6時間超えでの休憩」が外される。
36協定による適用除外のように時間数に制限はない。

そのためには労働基準監督署の「適用除外許可」が必要となる。
監督署は「その断続的労働について基準法の労働時間制限を外してよいかどうか」を細かく調べて許可する。
許可は業務内容が変わらない限り「無期限」となる。
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b.実労働は身体的疲労や精神的緊張の少ないものに限る

断続的労働の適用除外許可では労働時間や休憩時間の制限を外すので、
その断続的労働に含まれる実労働は「精神的緊張や肉体的疲労の少ないもの」でなければならない。

次の業務では「実労働と手待ち時間が繰り返されても」適用除外許可は与えられない。
・消防隊員や救急隊員,警察官の交番勤務や当直。
・高圧電線不良検出・対応
・タクシー運転手 ( 役員専属のお抱え運転手はOK )
・当直医師・看護師 ( 寄宿舎で寄宿生が医師にかかるまでの簡単な処置をする看護師はOK )
・鉄道踏切番は1日に10往復までOK。
いずれも「精神的緊張や肉体的疲労の大きい労働」だからである。
※問題となった各事案については解釈総覧参照。

断続的労働と同じく「基準法の労働時間制限を外せる」ものに監視業務がある。
ここでもその業務が「精神的負担や肉体的負担の少ない場合」にしか適用除外が認められない。

許可されない監視業務には次のようなものがある。 ( 解釈総覧 )
・立哨により行う場合
・必要により身体検査,所持品検査を行う場合
・料金徴収や車両誘導を伴う駐車場監視業務,
・ずっとテレビモニターを見ている場合
・異状事態発生時の対応に高度な技術や判断が必要な場合
・監視場所が危険や有害である場合。
これらは「精神的緊張や肉体的疲労が大きい」からである。

監視業務と断続的労働を全く同じに論ずることはできないが、
「労働による精神的緊張や肉体的疲労が少ないので基準法の労働時間制限を外す」ことは共通している。
そのため、「断続的労働の実労働として許される労働であるかどうか」の判断基準となる。

つまり
●断続的労働に上記業務と同じくらいの精神的緊張や肉体的疲労のかかる業務が含まれていれば、断続的労働の適用除外許可は与えられない。
●断続的労働の適用除外許可を得ていても、そのような業務を行わせれば許可の範囲を超えて違法労働となる。

この点から総合支所の宿直業務に「問題となるもの」が含まれているので後述する。 → こちらこちら

c.警備員の行う断続的労働の許可基準

イ.厚生労働省の許可基準

その断続的労働について適用除外許可を与えるかどうかは
具体的業務について個別的に判断される。

但し、警備員が行う ( 警備業務として行う ) 場合は
一般の労働者が行う場合より許可基準が厳しくなっている。

その理由は
・警備業務が警備業法の規制のもとで行われるものであること。
・警備員の責めにより業務上損害が生じた場合には賠償責任を負わされること。
・そのため、警備員が業務を行う場合には「通常の労働者が行う場合より精神的緊張が大きくなる」こと。

厚生労働省の定める具体的基準を以下に説明する。 ( 解釈総覧 )

総合支所の職員は ( 特に管理職は ) しっかりと理解しておこう。
この基準を外れると違法労働となってしまう。
もし、この基準から外れた業務を指示した場合は「違法労働を指示した」ことになるからだ。

問題が発覚したときに責任を取らされるのは現場の管理職。
本庁は『えっ?そんな違法労働をさせていたのですか?厳正に処分いたします。』
「トカゲの尻尾」にならないようにガードを固めておこう。

①業務内容
「いわゆる宿日直業務の代行」として行われる業務であること。
すなわち、
原則として、「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」で
定時的巡視、施錠及び開錠、緊急の文書又は電話の収受、不意の来訪者への対応、非常事態発生の対応などを業務内容とするものであること。

②巡視については次の要件を満たさなければならない
a.巡視による精神的緊張が少ないこと
・警備対象が広い場合 ( 空港,コンビナート,遊園地など ) は不可。
・その施設が構造上外部からの侵入を防げないものである場合は不可。
・高価な物品が展示・保管されている場合は不可。
b.巡視する場所が危険でなく環境条件が有害でないこと。
c.巡視回数は6回以下、1巡視は60分以内、合計は4時間以内


これらは「精神的緊張や肉体的負担が大きいので」不可とされいてることを理解しておこう。
巡視についてこれらの基準をクリアーしていても、
他の業務が「精神的緊張や肉体的負担の大きいもの」であれば許可は与えられない。
そのような業務を含めていれば許可の範囲を超え「違法労働をさせている」ことになる。


③拘束時間
・12時間以下 ( 睡眠時間なしの場合 )
・16時間以下 ( 夜間に継続して4時間以上の睡眠時間が与えられる場合 )


16時間勤務で「夜間に連続して4時間以上の睡眠時間が与えられない」と違法労働となる。
地震や火災発生などの「不測の緊急事態」は別にして
道路障害や水道障害などの通報電話のように「通常の緊急事態」で睡眠を害される場合は
「連続した睡眠時間を与えているかどうか」問題となる。


④休息期間 ( 勤務と勤務の間隔 )
・10時間以上 ( 勤務中睡眠時間なしの場合 )
・8時間以上 ( 勤務中の夜間に継続して4時間以上の睡眠がとれる場合 )

⑤隔日勤務の場合の基準
隔日勤務の場合は上の基準が緩くなる。
・拘束時間:24時間以下(勤務中の夜間に継続して4時間以上の睡眠がとれる場合 )
・巡視:10回以下,1巡視1時間以内、合計6時間以内
・休息期間:20時間以上

24時間勤務でも「夜間に連続して4時間以上の睡眠」を与えないと許可の範囲を超え違法労働となる。
睡眠を害するような業務が含まれていると違法労働となる。


⑥休日
・1か月に2日以上の休日が必要。
・休日は休息期間に続けて24時間を与えなければならない。
・「勤務 → 明休み ( 休息期間 ) → 休日」となる。

⑦勤務施設・勤務期間
・1施設 ( 2施設の掛け持ちは不可。臨時の場合は可 ) 。
・1か月程度勤務を継続させること。 ( 契約期間が1か月未満の場合はその契約期間全て )

⑧睡眠を与える場合の設備
・十分な睡眠が確保できる設備と寝具が必要

「十分な睡眠が確保できる仮眠室」を与えないと違法労働となる。
具体的には「冷暖房完備の独立した仮眠室」が必要となる。

ロ.津市は宿直業務を「適用除外許可の得られる断続的労働」としている。

津市総合支所警備業務調達仕様書の「業務時間」の項目には次のように記載されている。
「当該業務は、原則として、常態としてほとんど労働する必要がなく、定期的巡視、施錠及び開錠、緊急の文書または電話の授受、不意の来訪者への対応、非常事態発生の対応等を行うものであり、夜間には継続4時間以上の睡眠が可能であることから、業務時間全てが労働時間ではない。」

この記載から「津市が発注する総合支所警備業務は断続的労働であり、監督署の適用除外許可が取得できる業務である」と判断できる。

この点につき以前に津市に質問して確認。
津市はこれを認めている。 →  こちら

そのため津市は
津市の発注する総合支所宿直業務に
上記許可基準から外れる業務が含まれていればその業務を外さなければならない。
そうしないと、津市自らが違法労働を求めていることになり、

受注者に労働基準法違反をさせていることになってしまう。

ハ.許可基準に適合するシフトの例

新たにこの宿直業務を受注しようとしている警備業者は参考にしてもらいたい。
このシフトなら監督署の許可が下りるはずである。

平日17:15~翌8:30 ( 15.25時間 ) 、土日祝日8:30~翌8:30 ( 24時間 ) の場合
・夜間に継続して4時間以上の睡眠がとれることが必要 。
( 睡眠なしなら拘束12時間以内しか許可されないので1勤務につき2名必要。 )
・平日勤務の連勤可能 ( 休息期間は8:30~17:15の9時間15分で8時間以上となり許可基準内 )
・土日祝日 ( 24時間 ) 勤務が混在するとき「隔日勤務が必要となる」ので連勤は不可。

●通常シフト:2名で隔日勤務をさせ、月に2度「休息期間に続けて1日の休日」を与える。

・月,水,金,日,火,木,土の隔日勤務で月に2回「勤務日のどれかを休日」とする。

・月,水,,日,火,木,土,月,水,,日,火,木,土 ( 2週に一度金曜日を休日にする )

・もう一人も同じように休日 ( 金曜日 ) を与えると「毎週金曜日だけ出勤する者」が必要となる。

・適用除外許可では隔日勤務2名と休日の代替要員1名の「合計3名」で申請する。

●月~金を1名で連勤させる場合

・平日だけ勤務なら休息時間が8時間以上あるので連勤可能。

・月~金を1名が連勤。
・土日祭日は24時間勤務で24時間勤務は「隔日勤務に限る」から土日祭日勤務はさせられない。
・月に2回の休日は「毎週土日出勤なし」なのでクリアーできる。

・土日祭日の24時間勤務を行う2名が別に必要
・24時間勤務の連勤はできないから土日祭日勤務の者が2名必要となる。

・この場合も3名必要になる。

結局、この業務に労働者を配置する場合は「3名必要」となる。

二.1勤務6時間以内でつなげば許可不要

断続的労働の適用除外許可が必要になるのは「基準法の労働時間制限に抵触する場合」だけ。
拘束時間が6時間以内なら「1日8時間労働,週40時間労働,6時間超えの場合の休憩」に抵触しない。
そのため、適用除外許可は必要ない。

断続的労働の適用除外許可が必要ないから「その業務が許可基準を満たすかどうか」は関係ない。

例えば15時間15分の平日勤務を「6時間+6時間+3時間15分」の3名でつなげたり、
休日の24時間を「6時間×4名」でつなげたりすれば断続的労働の適用除外許可は必要ない。

適用除外許可が必要なければ許可基準の「巡視場所,巡視環境,睡眠,休息期間,休日」も関係ない。
勤務場所が劣悪な環境でも、精神的肉体的負担が大きくても、睡眠を与えなくても違法労働にならない。

断続的労働の適用除外許可を得ずに「6時間以内勤務でつなげる」事業者も見られる。

もちろん、断続的労働の適用除外許可がなければ最低賃金の減額許可も得られないので、
「楽な宿直業務だから」と最低賃金をを減額することはできない。
また、他の業務もやらせる場合には「基準法の労働時間制限」がかかってくる。



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